累風庵閑日録

本と日常の徒然

『花暦八笑人』 瀧亭鯉丈 講談社文庫

●『花暦八笑人』 瀧亭鯉丈・他、興津要・校注 講談社文庫 読了。

 能楽者の仲良し八人組が、それぞれ順番に茶番劇を企画して世間のウケを狙うも、毎回失敗してとんだ目に遭うという連作集。実際は四編出した後に鯉丈が死去し、他の作者が第五編を書き継いだがそこで中絶してしまった。

 内容は、とにかく駄洒落とおふざけの連続である。八人が悪ノリして話がどんどん脇に逸れてゆき、メインの筋よりも脇筋の方が分量が多そうな。世情風刺といった要素はなく、ただひたすらに馬鹿馬鹿しさ面白さに奉仕する滑稽文芸である。ただ、最終第五編は作者が違ったせいか思わぬ(伏字)ネタが仕込まれていて驚いた。作者の才気のなせる業か。

 なにしろ古文であるからちょいちょい意味の取れないところがありはするが、注釈がしっかりしているおかげで思いの外すいすいと読めた。会話が多くてテンポがいいのも、読みやすさの一因である。ぱっと読んでにやりとして、さっと読み捨てるのがこの種の文芸への接し方であろう。内容について云々するのは研究者殿にお任せする。

●『花暦八笑人』の第一編はいわゆる「花見の仇討」ネタで、エンターテイメント文芸において重要な位置にある。諸賢ご存じのようにこのネタは広く応用されており、落語、銭形平次都筑道夫のなめくじ長屋といった作品に取り入れられている。横溝正史の人形佐七にも「花見の仇討ち」と題する作品がある。探せばもっとあるだろう。

 さらに、石ノ森章太郎の時代物にも取り入れられてるかもしれない。かもしれない、などと曖昧なのは、以前見かけた気がするものの具体的にどの作品かはっきりしないからで。私の記憶違いの可能性もある。今は昔、某氏主催の横溝同人誌に「花見の仇討の系譜」の題で寄稿しようと目論んだのだが、コミカライズの件がはっきりしないのでどうも腰が定まらず、頓挫したことがある。