累風庵閑日録

本と日常の徒然

『チェスプレイヤーの密室』 E・クイーン 原書房

●『チェスプレイヤーの密室』 E・クイーン 原書房 読了。

エラリー・クイーン外典コレクション」の第一巻である。著者表記こそエラリー・クイーンだが、実際の著者はジャック・ヴァンスだそうで。内容や文章については、マンフレッド・リーが入念にチェックし、かつ多くの個所で加筆したという。けっしてただの名義貸しや丸投げではないのだ。

 主人公アン・ネルソンの父親が、密室状態の部屋で死体で発見された。警察は自殺と判断したが、アンは父親が自殺するなんて信じられない。というのがオープニングである。そこから不可能興味が盛り上がってゆくかと思いきや、そうでもなく。アンが父親から相続した稀覯本や骨董品を巡るゴタゴタが、主として描かれることになる。それに加えて、事件を担当するタール警視が、アンにとっては憎らしいけど気になるアイツ(はあと)ってな立ち位置になっていて、いやはや。広くウケをねらうというのはこういうことか。

 なんとも軽い読み味で、いわゆる軽本格というやつである。さっと読めるのが取り柄。……というのは途中までの感想で、読了後の感想はがらりと変わる。中盤以降の盛り上がりはちょっとしたものだし、メインのネタは力まかせの大技で、作者の意外な豪腕に感心してしまった。