累風庵閑日録

本と日常の徒然

『快楽亭ブラック集』 伊藤秀雄編 ちくま文庫

三井記念美術館で、「大名茶人・松平不昧」と題する没後二百年特別展を観る。松江藩松平家第七代藩主松平治郷の、茶人として、コレクターとして、はたまたプロデューサーとして、それぞれの側面に焦点を当てた品々を展示している。内容に関する詳しいことは、書こうとすると半可通のぼろが出るから書かないでおく。

●『快楽亭ブラック集』 伊藤秀雄編 ちくま文庫 読了。

 明治探偵冒険小説集の第二巻である。改行がほとんどなく、文字がびっしり詰まったページを一見すると読むのに骨が折れそうだが、真打ち落語家の語りを速記で写したというだけあって、意外なほどスムーズに読める。現代の文章と比べるとさすがに読み辛いけれども。

 現代ではまずお目にかかれないような表現がちょいちょい出てきて、昔の文章だからこその魅力もある。相手を悪く言う言葉として、屁茶剥連(へちゃむくれ)野郎、茶楽放言(ちゃらっぽこ)を言う、などと、なんと面白いではないか。

 内容はどこかで読んだようなエピソードの連続で、だからこそ一切引っかかることなく頭に入ってくる。部分部分はともかく、全体の構成が自由奔放波瀾万丈で面白い。ちょっとやそっとのご都合主義はどんと来い、そうつながるか、その展開に持って行くかと、物語は意外な方向に発展してゆく。

 登場人物の、特に悪人の造形がやけに生々しく、身も蓋もない悪党ぶりがいっそ天晴れ。また、金持ちのドラ息子のだらしない遊び人ぶりは、ウッドハウスの作品に出てきそうな。

 個人的ベストは「幻灯」である。(伏せ字)ネタとしては最初期の作例で、乱歩が言うには世界で二番目だそうで。まさかそのネタが持ち出されるとは、意外な嬉しさであった。