累風庵閑日録

本と日常の徒然

2022-01-01から1年間の記事一覧

今年の総括

●年内最後の更新である。今年の総括をやる。 ======================== ◆今年一年間で買った本:百八冊読んだ本:百三十二冊 ◆読んだ本の中から特に面白かったもの、記憶に残ったものを挙げておく。順位もコメントも無し。・『正義…

善意の代償

●国内ミステリアンソロジーをゆるゆると読み始めた。傑作選である。ということはつまり、すでに様々なアンソロジーや個人短編集に収録された作品が選ばれているわけで。大半は既読であるが、せっかくだからそれらも再読する。読了は来年に持ち越し。 ●書店に…

『赤屋敷殺人事件』 A・A・ミルン 論創社

●『赤屋敷殺人事件』 A・A・ミルン 論創社 読了。 作品を読むのは四回目。あかね書房の子供向け訳と創元推理文庫と、横溝訳のテキストをこれで二回。さすがに少々作業感があったのは否めない。以下、三年前に横溝訳を読んだ時の日記を再掲しておく。 ==…

『九人の偽聖者の密室』 H・H・ホームズ 国書刊行会

●『九人の偽聖者の密室』 H・H・ホームズ 国書刊行会 読了。 版元が原書房から国書刊行会に変わって再開された、「奇想天外の本棚」の第一巻である。面白かった。だが残念ながら今日はあれこれ感想を書く気力がない。一点だけ。メインのネタは立風書房『ミ…

『アバドンの水晶』 D・ボワーズ 論創社

●『アバドンの水晶』 D・ボワーズ 論創社 読了。 表面に見えている謎、すなわちなぜ犯人は(伏字)するのか? に対する答えが事件の全体像と直結している。結末で明らかになる、その回答の意味するところがなかなかに意外で、巧妙で、悪質であった。事件を…

『ドイル全集 第六巻』 C・ドイル 改造社

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第三十一回。今回は第六巻から、「『北極星』號の船長」を表題作とする短編集パートを読む。「J・ハバカツク・ヂエフスンの話」は、かの有名なメアリー・セレスト号事件の真相はこうだ、という内容。ちょい…

『ウォリス家の殺人』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫

●『ウォリス家の殺人』 D・M・ディヴァイン 創元推理文庫 読了。 途中で予想外の情報が浮上して事件に新たな光が当てられ、それまで嫌疑の外にいた人物が急に注目され始める。登場人物の輪郭が次第に明確になり、ときには見えなかった側面が見え始め、人物…

『黒魔王』 高木彬光 論創社

●『黒魔王』 高木彬光 論創社 読了。 偶然偶然また偶然で物語を転がしてゆく辺り、いかにも通俗スリラーである。だがそれと同時に、割と堅実な捜査の模様も描かれている。これが乱歩だったら、もっともっと不可能興味と怪奇趣味、変態趣味を盛り込んで犯人の…

『処刑宣告』 L・ブロック 二見文庫

●『処刑宣告』 L・ブロック 二見文庫 読了。 あらかじめ犯行予告の手紙を新聞に送ってくる連続殺人鬼。主人公スカダーは、次のターゲットだと宣告された人物からの依頼で活動を始める。かすかな違和感を起点として殺人鬼の正体に迫るスカダーの推理は、本格…

『永久の別れのために』 E・クリスピン 原書房

●『永久の別れのために』 E・クリスピン 原書房 読了。 (伏字)るというメインのネタが、事件の構造をひっくり返すと同時に犯人に直結している。また、この段階で事件の真の姿が見えてくると、凶器に関する以前の記述が活きてくる。それとは別にとある小道…

『暗闇の梟』 M・アフォード 論創社

●『暗闇の梟』 M・アフォード 論創社 読了。 とにかく展開に起伏が大きく、次々に起きる事件と時々刻々変わってゆく人間関係とが、中だるみする暇もなくぐいぐい読める。ちょっとだけ残念だったのは犯人の計画のキモとなる部分で(伏字)だから、この点は私…

『乱歩とモダン東京』 藤井淑禎 筑摩選書

●『乱歩とモダン東京』 藤井淑禎 筑摩選書 読了。 内容が想像とはちと違っていた。主に関東大震災以降の東京の発展が、乱歩作品への言及と同量かあるいはそれ以上の分量で扱われている。昭和通りの工事の様子を当時の文献から引用したり、文化住宅の戸数や遊…

『八人の招待客』 Q・パトリック 原書房

●『八人の招待客』 Q・パトリック 原書房 読了。 原書房版奇想天外の本棚の、第三巻最終巻である。約百ページの中編が二編収録されている。クリスティーの「そして誰もいなくなった」と同趣向というウリだったからもう少し派手な外連味を期待していたのだが…

『食道楽』 村井弦斎 岩波文庫

●『食道楽』 村井弦斎 岩波文庫 読了。 いやはや、これはしんどかった。メインのストーリーはある登場人物の結婚問題だが、それはむしろ付け足しで。ページの大部分は滔々たる蘊蓄の洪水である。その蘊蓄も料理法だけに止まらず、食材の善し悪しの見極め方、…

女殺し定九郎

●今読んでいる長大な小説を明日には読了できる予定だったが、そうもいかなくなった。思いの外野暮用が多く、読書時間を確保できなかった。それに、はっきりいってあまり面白くないからページをめくる手が止まりがちだし。 ●注文していた本が二方面から届いた…

真珠塔・獣人魔島

●土曜と日曜とで岡山県に行き、「巡・金田一耕助の小径 1000人の金田一耕助」というイベントに参加してきた。例の伝染病のせいで過去二年中止だったのが、今年ようやく三年ぶりの開催であった。実になんとも楽しいイベントだったけれども、詳細は省略。 …

『ほりだし砂絵』 都築道夫 盛林堂ミステリアス文庫

●『ほりだし砂絵』 都築道夫 盛林堂ミステリアス文庫 読了。 しみじみといい本である。作家として、人として、都筑道夫を敬愛する多くの書き手のエッセイが胸に沁みる。一編だけの収録作「お化けかるた」は、読めるということにまず意義がある逸品。情景描写…

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第三十回

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第三十回。今回は第六巻から中編「巨大な暗影」を読む。老年に達した語り手が、自らの半生を振り返る。前半は幼年期から青年期にかけての、友情と恋の物語。後半は対ナポレオン戦争従軍記で、主にワーテルロ…

『フェンシング・マエストロ』 A・P・レベルテ 論創社

●『フェンシング・マエストロ』 A・P・レベルテ 論創社 読了。 主人公の造形が沁みる。政治や世間から一歩身を引いて超然と生きていたいのに、五十歳を過ぎてふと考えるのだ。近い将来の老化による体の衰えを。あるいは、やや遠い将来の死後に自分の大切に…

『アクナーテン』 A・クリスティー クリスティー文庫

●『アクナーテン』 A・クリスティー クリスティー文庫 読了。 作品に描かれているアクナーテン王は、人間誰しも持っている欲、怠惰、邪念、執着、といった心性をあまりにも軽んじているようだ。人民の統治者としての器ではなかったのかもしれない。哀れなこ…

『團十郎切腹事件』 戸板康二 創元推理文庫

●『團十郎切腹事件』 戸板康二 創元推理文庫 読了。 先月に半分読んだ残りを、隙間時間に細切れで読んでいった。最初はどうということもなかったのだが、二編三編と読んでいくにつれて文章の滋味を感じるようになった。まことによろしきものである。以下、簡…

『捕虜収容所の死』 M・ギルバート 創元推理文庫

●『捕虜収容所の死』 M・ギルバート 創元推理文庫 読了。 時は第二次大戦後期。イタリアの降伏が間近とみられている時期である。イタリア軍が管理する捕虜収容所の地下に、英国兵の手によって密かに脱走用のトンネルが掘り進められていた。イタリアが降伏し…

『雷鳴の夜』 R・V・ヒューリック ポケミス

●『雷鳴の夜』 R・V・ヒューリック ポケミス 読了。 手掛かりの出し方が大いに気に入った。特別珍しい手法ではないけれども、このシリーズで採用されるとは思わなかった。でも実際に読んでみると、このシリーズだからこそ活用できる手法だと納得である。別…

『月明かりの闇』 J・D・カー 原書房

●『月明かりの闇』 J・D・カー 原書房 読了。 不可能犯罪の謎も真犯人は誰かという興味ももちろんあるのだが、物語の重点は(伏字)に置かれているようだ。それに伴って真相に至る道筋も、数々の手掛かりから真犯人をあぶり出すのとは異なるアプローチにな…

『犯罪カレンダー』 E・クイーン ポケミス

●『犯罪カレンダー』 E・クイーン ポケミス 読了。 <1月~6月>と<7月~12月>の二分冊構成になっているのを二冊合わせて通読した。ご覧の諸賢にとってはまったくどうでもいいことだと思うが、これで二冊読了ということにする。収録作の多くが、設定…

『首のない女』 C・ロースン 原書房

●『首のない女』 C・ロースン 原書房 読了。 決め手のひとつが(伏字)だってのは短編に使われそうなネタで、長編を支えるにはちと心細い。実際、犯人がそういった特性であることを示す手がかりは、どうしても些細な表現になってしまう。私の注意不足を棚に…

読書会の文字起こし

●創元推理文庫の中村雅楽探偵全集第一巻を、半分まで読んで中断。残りは来月読む。これから再来年までかけて、全五巻をゆっくり読んでいこうと思う。 ●ほぼ終日に渡って、昨日の読書会の録音を文字起こし。もちろん実作業時間は丸一日ではない。集中力が続か…

第十一回オンライン横溝正史読書会『髑髏検校』

●第十一回オンライン横溝正史読書会を開催した。参加者は司会者を含め七名。課題図書は『髑髏検校』で、昭和十四年に雑誌『奇譚』に連載された作品である。併せて参考文献として、雑誌『小説倶楽部』の昭和二十八年十月号に掲載されたダイジェスト版も参照す…

「髑髏検校」横溝正史

●今週末にオンライン横溝正史読書会が開催されるので、課題図書の「髑髏検校」を読んだ。スピーディーで波乱万丈で面白いんだけど、単独で語るのはちと難しい。展開は原典の「吸血鬼ドラキュラ」に負うところが大きいし、正史の換骨奪胎の腕前を鑑賞するのも…

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第二十九回「ジエラール旅團長の冒險録」

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第二十九回。今回はジェラールシリーズの続編「ジエラール旅團長の冒險録」から、後半の四編を読む。結局最後まで、ジェラールのくど過ぎる性格設定に馴染めなかった。やれやれ、しんどいことよ。 四編の中…