2023-01-01から1年間の記事一覧
●『サハラに舞う羽根』 A・E・W・メースン 創元推理文庫 読了。 熱い物語であった。三角関係どころか、四人の男女の惚れたハレたが熱っぽく語られる。同時に、主人公の名誉回復と成長の物語でもある。ひたすら相手の幸せを願い、自らの信条に基づいて自ら…
●『愛の終わりは家庭から』 C・ワトスン 論創社 読了。 複数の物語が並行して語られる。一方は殺人事件で、シリーズキャラクターのパーブライト警部が捜査に取り組む。もう一方は、私立探偵がなにやら依頼をこなそうとしている。依頼主との会話では関係者の…
●『吸血鬼の島』 森英俊/野村宏平編 まんだらけ出版部 読了。 副題は「江戸川乱歩からの挑戦状I SF・ホラー編」である。主に昭和三十年代に少年誌に連載された、乱歩名義の探偵クイズ集。というのは器の話で、実際は推理どころか本文中の単語を抜粋した…
●『骨と髪』 L・ブルース 原書房 読了。 事件の依頼人は、従妹がその夫に殺されたと主張している。主人公キャロラス・ディーンが調査を進めると、次第におぞましい大量殺人の可能性が浮上してくる。しかしながら可能性はいつまで経っても可能性でしかなく、…
●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第三十六回として、第八巻の短編集「最後の戦艦」から、表題作を含む前半の十編百ページほどを読んだ。歴史の一コマを切り取って小説に仕立てた作品が多い。気に入った作品は以下のようなところ。 おそらく…
●『闇が迫る マクベス殺人事件』 N・マーシュ 論創社 読了。 前半はマクベスのリハーサルが進行する様を描き、開演が近づくにしたがって劇が成功するかどうかの緊張感が高まってゆく演劇小説である。これはこれでつまらなくはないのだが、なかなか事件が起…
●『緑のダイヤ』 A・モリスン 東京創元社 読了。 「世界大ロマン全集」第四巻である。表題作のほかに短編が二編収録されている。 アーサ・モリスン「緑のダイヤ」 競売でばらばらに売られた十一本のワイン。どうやらその中の一本に、インドの王族から盗まれ…
●『明治・大正・昭和 日米架空戦記集成』 長山靖生編 中公文庫 読了。 いい気なもんだぜ感が漂う、無邪気な戯言が多かった。コメントを付けたい作品は少ない。福永恭助「科学小説 暴れる怪力線」は、戦前の防諜小説にありがちな「わるいがいじんをやっつけて…
●『幻想と怪奇1』 早川書房編集部編 ポケミス 読了。 巻末解説によれば、幽霊もの、吸血鬼もの、といったテーマ毎に一編ずつ選んだという。おかげで目先が変わって飽きなかった。特に気に入ったのは以下の作品。ロバート・ヒチェンズ「魅入られたギルディア…
●『オパールの囚人』 A・E・W・メイスン 論創社 読了。 本格ミステリ寄りのスリラーといったところ。複雑な事件の全体像が少しずつ明らかになってゆく過程への興味が全体を支えている。殺人者は誰かという興味はその一部でしかない。だが、散りばめられた…
●『フライアーズ・パードン館の謎』 P・マクドナルド 原書房 読了。 怪奇現象が多発しているフライアーズ・パードン館で、女主人が死ぬ。閉ざされた水のない部屋で溺死するという、飛び切りの不可能興味が魅力的。真相はなるほどと感心するし、犯行手段のと…
●『エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件』 J・D・カー 国書刊行会 読了。 なんとも嫌らしい、胸の悪くなるような展開であった。客観的なデータと確固たるルールとに基づいて世界が動いていることが、私の愛好する本格ミステリの前提である。ところがここにあ…
●『中国梵鐘殺人事件』 R・V・フーリック 三省堂 読了。 三つの事件が同時並行で進行するのを、程よく錯綜させつつ遅滞なく書いてみせる構成力が相変わらずお見事である。本書では、早い段階で明らかになる事件の黒幕が強大な政治力と賄賂の原資たる豊富な…
●『シャーロック・ホームズの恩人』 長沼弘毅 家の光協会 読了。 ホームズの恩人として、ホームズの産みの親コナン・ドイル、ドイルがホームズのモデルにしたというベル教授、小説内でホームズに探偵稼業を勧めたトレヴァー老といった人々を論じる本。現実世…
●『シシリーは消えた』 A・バークリー 原書房 読了。 ミステリの面白さにはいくつかの種類がある。本書は、キャラクターと展開の魅力で読ませる作品。つまり、結末でロジックや伏線の妙に感心するよりも、読んでいる間ずっと面白いタイプの作品である。 田…
●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第三十五回として、第八巻の「爐邊物語」から前半の五編百ページほどを読んだ。気に入った作品は、オチの凄みが秀逸な「革の漏斗」、冒頭の不可解な謎が魅力的な「時計を持った男」、凄絶な結末の「カヴイヤ…
●『歴史を考えるヒント』 網野義彦 新潮文庫 読了。 フィクションを読むのが少々疲れてきたので、気分転換にノンフィクションを読む。歴史を研究するとき、古文献に書かれた言葉が当時どのような意味を持っていたのかに意識を向けることが重要であると説く。…
●『濃霧は危険』 C・ブランド 国書刊行会 読了。 「奇想天外の本棚」叢書の一冊で、ジュブナイルである。悪漢達に盗まれた家伝の宝物を、ひょんなことからその家の少年が追うことになる冒険譚。ふとした行き違いで悪漢グループから手に入れた暗号メモが、主…
●『死との約束』 A・クリスティー クリスティー文庫 読了。 記憶も定かでない三十年以上昔、この作品をハヤカワ文庫で読んだ。その後、戯曲版を論創海外ミステリで読んだ。引っ越しの際に文庫が見当たらなくてやむを得ずクリスティー文庫版を買い直しておい…
●『猿の手』 W・W・ジェイコブス 綺想社 読了。 副題は「ジェイコブス怪奇幻想作品集」である。とはいうものの、超常現象とは無縁の犯罪小説や滑稽譚も含まれている。十九世紀末から二十世紀初頭にかけて書かれた作品なので、まだ娯楽小説のジャンルが未分…
●『間違いの悲劇』 E・クイーン 創元推理文庫 読了。 全編に渡って、執拗なまでの言葉へのこだわりがいかにもクイーンである。それは時に物知りクイズめいた領域に達する。こだわりはダイイング・メッセージの形で作品になり、しかもただそのメッセージを読…
●『扉の影の女』 横溝正史 角川文庫 読了。 今度の日曜に開催される朗読劇の題材が、この本の表題作である。そこで予習として、久しぶりに再読することにした。前回読んだのは約九年前である。今日の日記は、その時の記述を多少修正を加えて再録する形になる…
●『新青年傑作選 第二巻 怪奇・幻想小説編』 中島河太郎編 立風書房 読了。 歳とともに小説の好みが変わってくるってえのは、さして珍しいことではないだろう。今、国内の怪奇・幻想系探偵小説はあまり響かなくなっている。暗く、哀しく、ねちこい作品を読む…
●『ゴルファー シャーロック・ホームズの冒険』 B・ジョーンズ ベースボール・マガジン社 読了。 イベントやなんかで読書時間を確保できず、三百ページに満たないこの本に五日もかかってしまった。ホームズは探偵活動と同時並行でゴルフにも熱心に取り組ん…
●『セントラル・パーク事件』 C・ライス ハヤカワ文庫 読了。 明るくユーモラスで軽快で、実にもう読んでいて楽しい作品であった。七年の失踪の後再びニューヨークに戻ってきた男ピジョン。そんな彼を金儲けのために誘拐する主人公コンビ、ビンゴとハンサム…
●『百万に一つの偶然』 R・ヴィカーズ ハヤカワ文庫 読了。 倒叙ミステリの迷宮課シリーズ第二巻である。最終的に殺してしまうほど相手への憎しみを募らせ、あるいは欲を募らせる犯人。最終的に殺されてしまうほど相手を追い詰めてしまう被害者。そんな人達…
●今月の総括。買った本:九冊読んだ本:十一冊 後半で失速したのはドイルがしんどかったからだ。
●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第三十四回として長編「ナイヂエル卿」を読んだ。いやはや、しんどかった。三百五十ページのこの作品に四日もかかってしまった。とにかくもう、会話が疲れてしまってしょうがない。なにかってえと名誉だ誓い…
●人形佐七の映画を観る。でもその前に、原作である「風流六歌仙」を先に読んで予習しておくことにする。春陽文庫なら第六巻『坊主斬り貞宗』に収録されている。内容をほとんど忘れていたのだが、これは意外なほどミステリ色の濃い秀作であった。江戸の芸能界…
●『トム・ブラウンの死体』 G・ミッチェル ポケミス 読了。 英国パブリック・スクールを舞台に展開される殺人物語が、ミステリの常道から微妙にずれたいつものミッチェル調で、楽しさ半分戸惑い半分である。会話のシーンで語られなかった情報が、あとになっ…