累風庵閑日録

本と日常の徒然

『駅猫』 上田廣 大正出版

●『駅猫』 上田廣 大正出版 読了。

 鉄道ミステリ六編を収録した個人短編集。主要登場人物が鉄道の職員だし、主な舞台が鉄道業界だったりするので、いわゆるトラベルミステリとはちと違う。

 多くの作品に、どうも荒っぽく思える部分が見受けられる。だが、欠点を探すような読み方では楽しめるものも楽しめなくなるだろう。気付いた点は自分の心覚えとして記録しておくが、非公開とする。

 上記を除くと、私好みの地道な捜査を描く作風で面白く読めた。収録作中のベストは、小道具についての発想がお見事な「梨と柿」である。他に気に入ったのは、最も鉄道ミステリらしかった「夜の触手」と、伏線がちょいと秀逸な「闇服」。

●書店に寄って本を買う。
『黒衣聖母』 芥川龍之介 光文社文庫
『白い陥穽』 鮎川哲也 光文社文庫

●注文していた本が届いた。
ロムニー・プリングルの冒険』 C・アッシュダウン ヒラヤマ探偵文庫

「おれは二十面相だ!!」

光文社文庫江戸川乱歩『怪人と少年探偵』を、年明けくらいまでかけて細切れに読んでいくことにする。今日は「おれは二十面相だ!!」を読んだ。普通のミステリなら、奇怪な事件の真相が(伏字)てえのは腰が抜けそうになるところだが、少年探偵団シリーズでこの程度のことをとやかく言ってもしょうがない。

『殺しにいたるメモ』 N・ブレイク 原書房

●『殺しにいたるメモ』 N・ブレイク 原書房 読了。

 巻末解説によれば、この作品が長らく翻訳されなかったのは質とは無関係で、日本の翻訳のタイミングとずれたためであろうとのこと。全く頷けることである。実にもう、しんどくなるくらいロジックてんこ盛りのハードな作品であった。完全に流れを追えたかどうか、どうも自信がない。翻訳刊行は二十年以上前である。今より若く多少なりとも頭が柔軟だった当時に読むべき本であった。

 真犯人に関する意外さの演出がもう少々欲しいところだが、それは私の好みの話であって作品の出来の問題ではない。一方で終盤の意外な展開がスリリングであった。一番感心した伏線は(伏字)で、某人物の発言が嘘だったことを示す手際がお見事。

 時間があれば、真相と伏線と関係者の造形とを照らし合わせながら再読したいところだが、残念、他に読みたい本がいくらでもある。

●注文していた本が届いた。
『影を待つ女』 鷲尾三郎 東都我刊我書房
 ほぼ同じタイミングでロムニー・プリングルも注文したのだが、そっちが届くのは明日以降になりそうだ。

『シャーロック・ホームズの紫焔』 長沼弘毅 文藝春秋

●『シャーロック・ホームズの紫焔』 長沼弘毅 文藝春秋 読了。

 私の興味如何によって、面白く読めた章とそうでもない章とにはっきり分かれた本であった。第三章「ホームズと煙草」は、煙草に関する雑学が興味深い。第四章「タイヤの問題」は、作中の記述から新たな可能性を導いてみせる展開がスリリング。

 その一方で、ホームズ作品の事件発生年がいつか、という視点がベースになっている章は、その面白さにあまり共感できない。知らんがな、と思ってしまう。私はホームズシリーズをフィクションとして楽しんでいる。現実の時間軸とすりあわせるアプローチは、確実に私の興味の埒外である。

『赤いランプ』 M・R・ラインハート 論創社

●『赤いランプ』 M・R・ラインハート 論創社 読了。

 読んでいてストレスの溜まる作品であった。素人が他人に読ませることを想定せずに書いた日記という設定なので、意図的にこういう書き方をしたのだろうか。読者に情報を伝えるのになんでまたこんな(伏字)な書き方をするのか、と引っかかる箇所が何度も何度も出てきて、途中で気持ちが醒めてしまった。以下、もっと感想は書いてあるのだが、ネガティブな文章を長々と公開してもしょうがないので今日はここまで。

『蝋人形館の殺人』 J・D・カー 創元推理文庫

●『蝋人形館の殺人』 J・D・カー 創元推理文庫 読了。

 解明に至る展開として、(伏字)ているのがちと期待と違ったけれども、犯人はかなり意外。そして、物証を犯人に結び付ける流れがお見事。読者が同じ手順を踏んで犯人にたどり着けるとは思えないけれども、それがカーの持ち味である。

 途中で犯人とバンコランとが会話している場面に描かれている伏線が、これまた気付くはずないだろと思える些細なもので。それがカーの持ち味である。解明部分を読んだ後、後戻りして確認する作業の楽しさよ。

 ジェフ・マールの活躍に伴うサスペンスも、結末の盛り上がりもちょっとしたもの。パリの夜の爛熟と退廃、蝋人形館の暗さと陰惨さ、といった雰囲気もいい感じ。

『死者の長い列』 L・ブロック 二見文庫

●『死者の長い列』 L・ブロック 二見文庫 読了。

 奇妙なクラブにまつわる奇妙な依頼が、主人公マット・スカダーのもとに持ち込まれた。犯罪かどうかすら分からない雲をつかむような依頼に対して、地道な捜査活動を続けるスカダー。やがて異常ともいえる状況が浮かんでくる。

 事件の異様さと会話の面白さとでさくさく読める。五百ページの分量が苦にならない快調さは上出来である。それはいいのだが、本筋に関係のない会話がなければ七割くらいの分量に収まるのでは、と思ってしまう。

●注文していた本が届いた。
『七妖星』 保篠龍緒 盛林堂ミステリアス文庫

●定期でお願いしている本が届いた。
『赤いランプ』 M・R・ラインハート 論創社
クレタ島の夜は更けて』 M・ステュアート 論創社

今月の総括

●今月の総括。
買った本:十二冊
読んだ本:十冊
 もう一冊読むだけの時間はあったのだが、もう一冊読むだけの集中力が残っていなかった。頭を休ませる日を設けた後で読み始めた長編は、明日には読了できる。

「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクト第十七回

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第十七回として、第四巻を読み始める。今回は、「危険!」を表題作とする全十編収録の短編集を読む。ただし冒頭の「訳者の言葉」によると、そのうちの一編はなぜか第七巻に収録されているという。というわけで今回読むのは九編である。

 翔泳社の『ドイル傑作選』にも採られている三編が、やはり面白さが抜きんでているようだ。「バリモア卿の失脚」の痛快さ、「高空の恐怖」の不気味さ、「事の始末」の切れ味、どれもちょっとしたものである。

●昨日外出する用事があったので、ついでに書店に寄って本を買う。
『青髪鬼』 横溝正史 柏書房
『混沌の王』 P・アルテ 行舟文化

『オルレアンの魔女』 稲羽白菟 二見書房

●『オルレアンの魔女』 稲羽白菟 二見書房 読了。

 メインとなる舞台はカンヌというから、イタリア国境にほど近い場所である。題材はオペラ、起きる事件はちと血液多め。となると自然に、血液多めのホラー映画を連想してしまう。イタリア、バレエ、血液多めとくれば「サスペリア」だ。真相の方向性が実際どうなるかはもちろんここには書かないけれども、なかなかヘヴィーではあった。

 読了して一番感心したのは、冒頭シーンの位置づけである。なるほど、こういう意味があるのか。だからこそ、(伏字)ったのだ。

 以下、作品の質に関係のない余談。いつも昔の小説ばかり読んでいるので、文中に「スターバックス」だとか「スマホ」なんて単語が出てくるとそれだけで新鮮に感じる。