●今、三冊の作品集を並行してつまみ食いしている。どれも来月には読了できるだろう。
●書店に寄って本を買う。
『孔雀屋敷』 E・フィルポッツ 創元推理文庫
『シャーロック・ホームズとサセックスの海魔』 J・ラヴグローヴ ハヤカワ文庫
●注文していた本が届いた。
『新版大岡政談』 角田喜久雄 捕物出版 捕物出版
●今月の総括。
買った本:十二冊
読んだ本:十一冊
月末に至って三冊も買ってしまった。
●今、三冊の作品集を並行してつまみ食いしている。どれも来月には読了できるだろう。
●書店に寄って本を買う。
『孔雀屋敷』 E・フィルポッツ 創元推理文庫
『シャーロック・ホームズとサセックスの海魔』 J・ラヴグローヴ ハヤカワ文庫
●注文していた本が届いた。
『新版大岡政談』 角田喜久雄 捕物出版 捕物出版
●今月の総括。
買った本:十二冊
読んだ本:十一冊
月末に至って三冊も買ってしまった。
●『密室への招待』 E・D・ホック ポケミス 読了。
収録作中のベストは「壁を通り抜けたスパイ」。伏線の密度が高いし、その内容も上出来。ホーソーンシリーズの「水車小屋の謎」は、(伏字)した理由が秀逸。
事件の謎が魅力的なのは、冒頭の「不可能な”不可能犯罪”」と、レオポルド警部シリーズの二編「レオポルド警部の密室」と「人間消失」、そしてホーソーン博士シリーズの二編「投票ブースの謎」と「古いかしの木の謎」。
安定した出来映えで安心して読めるホックであった。
●岡山県倉敷市で開催されたイベント「1000人の金田一耕助」に参加してきた。いつもながらの濃い内容で、朝から夜まで充実した一日を過ごせたのであった。素晴らしい。
●『振袖小姓捕物控 第一巻 黄金の猿鍔』 島本春雄 捕物出版 読了。
ミステリの一ジャンルとしての捕物帳のつもりで読み始めたら、盛大にずっこけた。主人公が事件に取り組んで解決する形式にはなっているものの、これってハチャメチャな伝奇短編シリーズなのであった。まず、主人公振袖美弥太郎の設定が凄い。北町奉行遠山金四郎の寵童で、当年とって十八歳。本当ならとっくに元服すべき年齢であるが、遠山奉行が手元から離そうとせず未だ前髪姿である。その容姿は沈魚落雁閉月羞花、大江戸八百八町の娘達がみな霞んでしまおうかという大変な美少年である。そんな美弥太郎がある日突然、市井の事件に取り組みたいと言いだして、奉行におねだりして与力格を与えられたことからシリーズが開幕する。
しかもこの美弥太郎、総合武術振袖流の達人なので。振袖流に含まれるのは、剣術、弓術、体術、縄術、忍術。花火を使った通信術もお手の物。香料を駆使し人並み以上に鼻が利くようになるのが振袖流香術である。振袖流闇煙霧は毒ガス術。歩くときは地上一寸の上を風に乗るかと紛う振袖流浮動歩法で、滑るように移動する。犯人を捕縛に行くとき、現場周辺に仕掛けるのが振袖流闇縄張りである。こうして列挙してみると、なんとも馬鹿げた愉快さがあるではないか。
作者自身が振袖流を総合武術だと意識していたかどうかは定かではない。完全無欠のスーパーマンが、あれもできるこれもできると挙げていくその都度、振袖流の名前を当て嵌めていったのではなかろうか。これだけの要素を与えられた主人公はさぞかし個性的と言いたいところだが、特徴を書いたカードが棒杭に何枚もぶら下げられているようだ。
とある作品の、解決に至るプロセスはこうだ。闇夜で犯人に出会った美弥太郎が、相手に特殊な香料を仕掛ける。その香料は一般人が感じることはできず、香術を修めた者のみが嗅ぎ分けることができるという。後日、犯人が世を忍ぶ仮の姿で美弥太郎と会った時にその匂いがしたので、正体を暴かれてしまう。これって要するに、魔法や超能力で事件を解決するのと同じようなものである。
主人公がこんなカッ飛んだ設定なので、敵側もなかなか負けてはいない。都城流忍術の達人。御嶽幻術の使い手、蝙蝠一族。邪香・髑髏香を使って人々を幻惑する闇公方。魔力を持った幽鬼銭を守護とし、攻めては銭を投げて相手を殺傷する、古賀流占銭術の達人。奇怪な毒矢を使う紅蜘蛛一族。錚々たる顔ぶれである。こうして列挙してみると、なんとも馬鹿げた愉快さがあるではないか。
それにしても、全四巻のこのシリーズはそうそう続けて読めるものではない。あまりといえばあまりなスットンキョーさに、胸焼けしてしまう。読破するまでには、さあて、あと二、三年はかかるか。
●定期でお願いしている本が届いた。
『もしも誰かを殺すなら』 P・レイン 論創社
『アゼイ・メイヨと三つの事件』 P・A・テイラー 論創社
●昨日から読み始めた時代小説短編集が、あまりに濃くて胸焼けする。そっちを中断して、作品社の『都筑道夫創訳ミステリ集成』から「銀のたばこケースの謎」を読んだ。感想は通読してから。年内には読む予定。
●『未来が落とす影』 D・ボワーズ 論創社 読了。
この犯人設定は、いい。これはいい。この真相を成立させるためには、なかなかにデリケートな書き方が必要である。記憶が新しいうちに再読したら、そこら辺の機微が分かって面白さも一入であろう。横溝正史のいう、推理小説は二度読むべし、である。ここで悠々と二回目に取り組むのが豊かな読書ライフのような気もするが、私は次の本に取り掛かる。積ん読消化に汲々としている。
一見無関係であるかのような、様々な人名やエピソードが盛り込まれている。ミステリ小説なんだから、実際はもちろん関係があるはずなのだ。それらの要素の関連性が、ひとつの読みどころである。物語が進むにしたがって次第次第に、混沌とした状況が大量の伏線を伴ってひとつの絵柄にまとまってゆく。途中途中の記述の意味が、終盤になって鮮やかに浮かんでくる展開がエキサイティングである。
●『フランケンシュタイン』 高木彬光 偕成社 読了。
「少年少女世界の名作」の第十二巻で、原作/シェリーとしてある。冒頭の「この物語について」によれば、高木彬光が内容を多少はぶいたりおぎなったりしているという。原典と比較してみたいが、昔読んだ創元推理文庫の内容はすっかり忘れている。当時しんどい思いをしたことは覚えているから、再読するのも気が乗らない。次善の対応としてWikipediaのあらすじを参照すると、実際は多少どころではない改変が施されているようだ。
特に著しい違いは、イゴールなる怪人物が登場する点。イゴールは原典に登場しない映画オリジナルの人物で、フランケンシュタインの助手である。ところが本書では助手どころか、悪のマッドサイエンティストとして一方のキーパーソンに位置付けられている。(伏字)なんて、突き抜けた怪人ぶりを発揮する。人造モンスターよりもむしろイゴールが悪の親玉として前面に出ている感がある。
本書はわりとさくさく読めて、しんどい思いはしなかった。それがどこまで省略とアレンジのおかげなのか。これ以上の詳細な比較は、彬光マニアさんにお任せする。
●『チューダー女王の事件』 C・ブッシュ 創元推理文庫 読了。
ずいぶん素直な作品であった。(伏字)たことから、犯人はみえみえである。こうなると物語の興味は、犯人の意外性ではなく犯行計画の工夫と真相に至る伏線やロジックとになる。
警察の地道な捜査が丁寧に書かれてあって、そっち方面の面白さも期待していたのだが、残念ながら少々心細い。途中で検討される仮説が、いろいろな要素を反映しておらず薄っぺらなのである。俯瞰的に考えても、こんなのがミステリの真相であるとは思えない。そこから次々に異なる仮説が俎上に載せられてディスカッションが繰り広げられるようだと面白さも増すのだが。残念ながらコレヂャナイ感漂う最初の仮説の周辺をぐるぐる回るだけであった。
さて上記の、ふたつの興味について。前者の、犯行計画の工夫については概ね満足である。複雑な計画が事前に細かいところまで練り込まれてあるし、(伏字)なんてネタが嬉しい。死体の異様な状況が興味深いし、その理由が秀逸。二点おやおやと思う部分があるけれども、具体的なことは当然非公開。
後者については、大量の要素がきちんと落ち着くべきところに落ち着いており、満足度が高い。こちらも一点おやおやと思う部分があるが、真相の意外性を演出するためにはこういう書き方になるのだろう。
●土曜の文フリで買った本。
『美女舞踏』 三上於菟吉 ヒラヤマ探偵文庫JAPAN
『TVドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」散策ガイド 基礎編』 うえしなみさき
『TVドラマ「シャーロック・ホームズの冒険」散策ガイド 人物篇』 うえしなみさき
『Carr Graphic Vol.2』 饒舌な中年たち
●文フリでのいただきもの。
『横溝三大探偵『読』本』 たぬ斧
『横溝映像なまくび図鑑 Vol.1』 探偵堂
ありがとうございますありがとうございます。
●郵送による頒布本。
『Re-ClaM vol.11』
『Re-Clam eX vol.5』
●注文していた本が届いた。
『ラヴデイ・ブルックの事件簿』 C・L・パーキス ヒラヤマ探偵文庫
『1930年のイギリス料理』 ヒラヤマ探偵文庫
●『謎のクィン氏』 A・クリスティー クリスティー文庫 読了。
再読である。記憶も定かではないたぶん四十年近く昔に読んで、当時はどうということもなかった。ところが今回読んでみて驚いた。なんと面白いではないか。初読当時はまだ幼くて、この味を受け入れる読書経験を積んでいなかったのかもしれない。
伏線がきっちり仕込まれているのが嬉しいし、こちらの嗜好をくすぐるようなネタが大量に盛り込まれているのも嬉しい。その例をいくつか挙げると、表面に見えている絵柄がある瞬間がらりと変貌して、全く別の姿を現す。互いに無関係な文脈で発せられたふたつの言葉が、合わせて考えるとひとつの伏線になる。遠い記憶に残っている瞬間の印象が、振り返ってみると重要な意味を持つ。なんら違和感がない当然の情景描写が、実は事件の根幹に直結している。取るに足りない発言の中に、真相を示唆する情報が隠されている。
「空のしるし」は、まるでチェスタトンのようだ。緊迫感が上々の「ヘレンの顔」は、まるで小酒井不木か甲賀三郎のようだ。「死んだ道化役者」は、長編に仕立てても成立しそうな堂々たるミステリである。某作品の結末近く、人間は変わるものだがあんなふうには変わらない、のひとことで強烈なサスペンスが立ち上がってくる。ある作品では、結末に至って初めて、途中の描写の凄みが分かる。
そして、このシリーズで味わうべきはミステリの面白さだけではない。人々の人生が交錯する瞬間の悲喜交々がある。その点では「海から来た男」が秀逸。この辺を書くとあまりに長くなりすぎるので省略。
●定期でお願いしている本が届いた。
『未来が落とす影』 D・ボワーズ 論創社
●『叫びの穴』 A・J・リース 論創社 読了。
なんとも地味で重厚な描写が続き、読み進めるのにちょいと覚悟が要る作品である。その読み味はクロフツの地味さではなく、P・D・ジェイムズの重厚さである。ノーフォークの北海沿岸に位置して、強風が吹き荒れ周囲の湿地に浸食されつつある僻村の描写は、寒々として湿気が迫ってくるようだ。
真相に至る筋道が、多く(伏字)に依存しているのがちょっと好みから外れるけれども、書かれた時代を考えればどうということはない。ちゃんと書こうとしてもどうせ伏字ばかりになってしまうからキーワードだけ書くけれども、とある伏線に関心した。意外性の演出にも感心した。陰鬱な描写は上にも書いたように読むのにちょいと覚悟が要るけれども、それはまた魅力にもなっている。ミステリを読んだ満足感をちゃんと得られる良作であった。