累風庵閑日録

本と日常の徒然

『鉄道エッセイコレクション』 芦原伸編 ちくま文庫

●『鉄道エッセイコレクション』 芦原伸編 ちくま文庫 読了。

 「「読み鉄」への招待」という副題が付いている。列車、駅、時刻表といったテーマ毎にそれぞれいくつかのエッセイを収録したアンソロジーである。この手の本を読むとき、日本各地の鉄道が通っている場所にだいたい行った経験が重宝する。言及された土地の多くにそれなりの実感がある。ひとつだけコメント。内田百閒「雪解横手阿房列車」のとぼけた味は、何度読んでも可笑しい。

●書店に寄って本を買う。
『第八の探偵』 A・パヴェージ ハヤカワ文庫

●直販でお願いしている本が届いた。
『正直者ディーラーの秘密』 F・グルーバー 論創社

『渡辺啓助探偵小説選I』 論創社

●『渡辺啓助探偵小説選I』 論創社 読了。

 昨日の日記に書いたノンフィクションを少し読んだら気分が変わったので、予定を変更してこっちを読み終えることにした。ねっとりとした変格探偵小説の書き手というイメージだったが、本書では予想外の軽妙な作風が味わえる。その点は多としたい。

 くどさが無いことは読みやすいことでもあるが、これはという尖がった作品が少ないことでもある。そこそこ気に入ったのは、市井の人々の悲喜交々を描いた「三吉の食欲」、「センチメンタルな蝦蟇」、「落書きする妻」といった辺り。ユーモアが漂い、私の嫌いな人情噺の湿っぽさが無い点を買う。ミステリの面白さとはちと違うのであるが。

 収録作中のベストは「盲目人魚」であった。まず物語の基本設定が好みで、田舎の湯治場に逗留する主人公が事件に出くわすという、もうそれだけで身を入れて読める。展開は前半の収録作で読んできたものとは異なって、オーソドックスなミステリ仕立て。結局私はミステリを読みたいのである。終盤の展開は駆け足だが、それを物足りないとするのは無い物ねだりだろう。このページ数ではやむを得ない。本書でこういったミステリ味の濃い作品を読めたことだけで上出来である。

 巻末の編者解題ではまず、編集意図の説明があった。作品を選定する際、先行する短編集との重複を避けたという。怪奇性やトリックといった特定の評価軸から漏れるような作品にこそ、時代と作家との関係の痕跡が見えるのではないか、だそうで。次いでその意図を踏まえた作品の読み解きに移るのだが、これがなかなかの読み応え。作品に対する理解が深まり味わいが深まる、上々の解題であった。

リハビリとしてのノンフィクション

●あともう少しで一冊読み終えるところで、頭がフィクション疲れを起こしてしまった。残りは数十ページしかないが、もう読めない。架空の物語を頭に受け入れる気にならない。リハビリのため、ノンフィクションを手に取ることにする。フィクションとノンフィクションとでは、読むときの頭の使い方が違うのだ。

『前後不覚殺人事件』 都筑道夫 光文社文庫

●『前後不覚殺人事件』 都筑道夫 光文社文庫 読了。

 散りばめられた雑学は楽しく、文体の工夫やちょっとした仕掛けには感心する。いかにも都筑道夫らしい懲り様である。だがこの真相はちょっとどうも…… 滝沢紅子シリーズはこの一冊しか手元に無い。面白かったらシリーズを揃えようかと思っていたが、これでは買わなくてもいい気がしてきた。

 その後巻末解説を読むと、違う読み方が提示されていた。なるほどそう読めばいいのか。これで作品を見直して個人的評価も上がったが、私が読みたいのはオーソドックスなミステリなのだ。やっぱりシリーズは買わなくていい気がする。

 もう一点。本書はシリーズをきちんと読んできた読者こそ楽しめる変則的な構成になっている。今更手遅れだが、本書を一番に読むべきではなかった。

●書店に寄って本を買う。
『『新青年』名作コレクション』 『新青年』研究会編 ちくま文庫

『不思議を売る男』 G・マコーリアン 偕成社

●『不思議を売る男』 G・マコーリアン 偕成社 読了。

 ふとしたことから古道具屋で働き始めた奇妙な男、MCC・バークシャー。店を訪れた客が売り物に興味を示す度に、彼はその品物にまつわる物語を語りだす。という設定の連作短編集。全体を覆う枠組みがひとつの読みどころ。素性が知れず、物語によって人の心を自在に操るMCCが、ふと不気味に見える瞬間がある。

 それぞれの物語がなんと魅力的なことか。形式はバラエティに富み、犯人当てミステリ、奇妙な殺人を扱うサイコサスペンス、怪奇小説、ホラ咄、海洋冒険譚、さらにはロマンスや戯れ詩まで。内容の多くは、特定の悪徳を体現する人物がまさしくその悪徳に縛られて不幸になってゆく顛末である。だがそれだけではなく、ちょいと胸に迫るエピソードもある。

 個人的に文章のリズムが性に合うのか、読んでいて気持ちいい。文意がすんなり頭に入ってくるので嫌われ役は本当に不愉快で、おかげでぐいぐい読める。特に気に入ったのは「ロールトップデスク[犯人探しの話]」、「木彫りのチェスト[いつわりの話]」、「鉛の兵隊[誇りの話]」といったところ。

 その昔MYSCONが定期的に開催されていた頃、界隈で話題になった本である。当時私もその話題に乗っかって購入し、以来今まで積ん読になっていた。今回ようやく手に取って、いやはやこれは読んでよかった。傑作である。

国会図書館から、横溝正史「壺の中の女」のコピーが届いた。長編「壺中美人」の原型短編で、読むだけならば光文社文庫の『金田一耕助の帰還』に収録されている。だが、初出の挿絵を観てみたくなったのだ。

『鮎川哲也探偵小説選II』 論創社

●『鮎川哲也探偵小説選II』 論創社 読了。

「冷凍人間」
 犯罪組織を抜けようとして制裁された男。製氷会社の冷凍室で凍死させられそうなところを、彼は危うく逃げ出す。しかしその影響で体が凍ったままの冷凍人間になってしまった。組織に対する冷凍人間の復讐が始まる。

 これはまるで、スパイダーマンかなにかの悪役ではないか。なかなか愉快である。途中の展開から結末に至るまでの構成が整っており、きちんとまとまったものを読んだ満足感がある。

「透明人間」
 こちらも怪人が跳梁するタイプの作品で、続けて読むとちと飽きる。「冷凍人間」の倍の分量で、あらかじめ予告された不可解な殺人というパターンが何度も繰り返されるので、やや間延びしている。真相はいかにもなジュブナイルらしさ。そういった点からして、こちらは評価が高くない。

「鳥羽ひろし君の推理ノート」シリーズは、内容がバラエティに富んでいて飽きない。化学ネタ、言っちゃあ悪いが他愛ない暗号ネタ、そして不可能犯罪ネタまで。気に入ったのは、ジュブナイルにしては筋立てが凝っている「冬来たりなば」、シンプルで効果的な伏線が嬉しい「黒木ビルの秘密」といった辺りである。

 気に入ったのとはちと違うが記憶に残る作品は、ミステリと言うより(伏字)ネタの怪奇小説「真夏の犯罪」、今ではとても書けそうにない内容とグロテスクですらある展開の「鯉のぼりの歌」ってなところ。

「悪魔の手」は、横溝正史ジュブナイル短編「真夜中の口笛」を連想する。また、ネタの再利用が見受けられるのも興味深い。

『一瞬の敵』 R・マクドナルド ハヤカワ文庫

●『一瞬の敵』 R・マクドナルド ハヤカワ文庫 読了。

 家出した娘を連れ戻して欲しい。そんな単純な依頼は、読み進めるにしたがって次第に様相を変えてゆく。事件は拡大し複雑化し、多くの人の関わりが見えてくる。主人公リュウ・アーチャーは現在進行形の事件の調査と並行して、淵源を探って過去へと遡ってゆく。

 錯綜した人間関係の奥から浮かび上がってくる真相は、いつものロスマク流。だが本書ではなんとまあ、(伏字)ネタまで盛り込まれてあって嬉しい。

 読んでいる間面白くて、読み終えて満足。こいつは傑作であった。

●本を売りに行った。文庫と単行本とをダンボール箱一杯で買取値三千円なり。上出来である。

『川野京輔探偵小説選I』 論創社

●『川野京輔探偵小説選I』 論創社 読了。

 艶笑小咄に濃い目のグロテスク風味を利かせて探偵小説の器に盛りました、といった塩梅の作品集。残念ながら私の好みではなかった。ただ、文章の読みやすさは評価したい。偉そうで申し訳ないけれども。さっと読めてさっと忘れてしまえる軽さが身上である。

 短編連作シリーズ「難波京介の事件簿」は猟奇事件を扱って、冒頭の謎が魅力的な作品もいくつかあるにはあるが、それぞれ六ページほどでは物語を膨らませようもない。

 比較的ミステリ味が濃かった中編の「呪われた美貌」を一番面白く読んだが、それにしたってこちらの評価のハードルをちょいと下げて臨まないといけない。第二巻が本格物を中心とした構成だというから、そちらに期待しておく。

 ところで巻末解題の末尾には、第三巻の刊行が決定したとある。来春刊行予定だそうで、ここで言う来春とは二千十九年のことである。実際は今に至るも第三巻は出ていない。頓挫したのは「決定」の方か、それとも「予定」の方なのだろうか。

●直販でお願いしている本が届いた。
『<羽ペン>倶楽部の奇妙な事件』 A・R・ロング 論創社

『ドイル全集2』 C・ドイル 改造社

●『ドイル全集2』 C・ドイル 改造社 読了。

改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの第十一回として、第二巻で残っていた「スターク・マンロオの手紙」を読んだ。青年医師が独り立ちしようとして人生に苦闘する、手紙形式の物語である。どうやらドイルの自伝的小説のようで、ドイルその人に興味をお持ちの向きには興味深く読めるのかもしれない。

 登場人物が多彩で、その点は面白い。たとえば半狂人の知人カリングワース、アルコール依存の引退した船乗りホアイトホール、血筋のプライドに凝り固まっている愚かな母親、といったところ。だがなにしろストーリー性が希薄だし、宗教がらみの議論を長々やるしで、ページが進まない。二百ページを読むのに三日もかかってしまった。

●プロジェクトは今後も継続し、来月からは第三巻に取り掛かる。