累風庵閑日録

本と日常の徒然

『九番目の招待客』 O・デイヴィス 国書刊行会

●『九番目の招待客』 O・デイヴィス 国書刊行会 読了。

 クリスティーそして誰もいなくなった」の先駆作であるという情報を事前に知ってしまうと、この先どうなるかの興味がやや減殺される。なるほどこの作品では閉鎖空間に集められた人々が順番に死んでいくわけだね、と予想できてしまうのだ。また、最終的に(伏字)。歴史的意義と、日本語で読めるという意義とで賞玩すべき珍品。二百ページほどしかない戯曲なので、あっという間に読めるし。

●お願いしていた本が届いた。
『殺人音』 楠田匡介 湘南探偵倶楽部
『恐怖の薔薇蛙』 島久平 湘南探偵倶楽部

●先日の三康図書館のイベントで情報を得た。横溝正史の人形佐七もの「三人色若衆」は、初出時とは題名も内容も変わっているというのだ。題名違いは守備範囲外だが、改稿ネタは好物である。早速国会図書館に複写を依頼していたものが、本日届いた。題名は「彼岸の毒」である。近いうちに現行版と読み比べてみたい。

『幻想と怪奇2』 早川書房編集部編 ポケミス

●『幻想と怪奇2』 早川書房編集部編 ポケミス 読了。

 たぶん未読だろうと思う作品のなかでは、ジョン・コリア「ビールジーなんているもんか」がベスト。ありがちなオチではあるが好みに合っている。再読ではW・W・ジェイコブズ「猿の手」が、やっぱり名作。H・P・ラヴクラフト「ダンウィッチの怪」はクライマックスに向けての盛り上がりが上々。

●定期でお願いしている本が届いた。
『サインはヒバリ』 P・ヴェリー 論創社
『やかましい遺産争続』 G・ヘイヤー 論創社

『別冊・幻影城 NO.7 高木彬光』

●『別冊・幻影城 NO.7 高木彬光』 読了。

「誘拐」
 犯人の計画に感心した。これはいい。読んでいる途中は、(伏字)要素がちと興醒めであった。だが、その部分にもきちんと神経が行き届いていることが分かって、なおのこと関心する。私好みの、警察の地道な捜査も描かれている。終盤まで引っ張られる犯罪計画の謎も興味深い。百谷泉一郎・明子ペアが事件に取り組み始めてからの、解決に向けた段取りも秀逸なアイデアである。しかもキャラクター設定と結びついているのが上々。これは読んでよかった。

「我が一高時代の犯罪」
 時計塔からの失踪は、シンプルな真相がお見事。読んでいるうちにふっと思い浮かんでもおかしくない自然なネタに脱帽である。全体的には、(伏字)を扱っていておぞましい。それにしても、追憶を無条件に美しいものとして扱っているのが、なんと無邪気なことか。私自身の学生時代を顧みると、幼さ故の愚かさと考えの浅さ、薄っぺらな言動に身もだえしそうになる。

●書店に寄って本を買う。
『死の10パーセント』 F・ブラウン 創元推理文庫
『アリス連続殺人』 G・マルティネス 扶桑社ミステリー
『九番目の招待客』 O・デイヴィス 国書刊行会

『七之助捕物帖 第三巻』 納言恭平 捕物出版

●『七之助捕物帖 第三巻』 納言恭平 捕物出版 読了。

 長くても二十ページ少々の作品ばかりなので、伏線とロジックとを練り込むには短すぎる。かといって捻りと切れ味とで勝負する作風でもなし。ミステリ的な小ネタがちょいちょい盛り込まれてはいるのだが、なにしろページが少なくてそれらを十分に活用できていない。目星を付けた相手を問い詰めたらあっさり全部白状して解決ってな感じで終わってしまう作品が多いのが、惜しいことである。

 このシリーズはたまに、ホームズものを丸ごと翻案したりネタを借用したりして油断がならない。第三巻ではなんとまあ、乱歩の「陰獣」そのままの作品があるではないか。これには驚いた。美女が過去の男から受け取った脅迫状に閨房の様がありありと書かれていたとか、その美女を囲っている旦那の嗜虐趣味だとか、さらには殺人の真相の裏表までそっくりである。大胆なことをやらかすものだ。この珍品一作だけで、本書を読んだ意味はあった。これで七之助シリーズを読み終えた。

●書店に寄って本を買う。
『幸せな家族 そしてその頃はやった唄』 鈴木悦夫 中公文庫

●久しぶりに古本を買う。
『お熱い殺人』 R・L・フィッシュ ハヤカワ文庫

『ドイル全集8』 C・ドイル 改造社

●「改造社の『ドイル全集』を読む」プロジェクトの最終回、第四十回として、第八巻で読み残していた「爐邊物語」後半の六編百ページほどを読んだ。そのうち四編は再読だったし、初読の「B二十四號」もストレートすぎる展開でさして感銘を受けず。せっかくの最終回だが、やや作業感のある読み方になってしまった。「色黒醫師」は(伏字)ネタが真相だったのでちと腰砕け気味ではあるが、途中の捻りが面白い裁判小説であった。

●これで改造社のドイル全集全八巻を読破した。約三年半に渡る個人的プロジェクトが完結した訳で、それなりの達成感がある。通読してみて、結局一番面白かったのはホームズシリーズだった。

 ところで、もともとこのプロジェクトは「横溝正史が手がけた翻訳を読む」プロジェクトから派生したものであった。名義貸しとはいえ、第八巻「爐邊物語」や他の巻の収録作の一部が横溝訳となっているので、こちらのプロジェクトも完結したことになる。それなりの達成感がある。

『黒猫になった教授』 A・B・コックス 論創社

●『黒猫になった教授』 A・B・コックス 論創社 読了。

 こりゃあ面白い。明るく軽快な展開に、この先どうなるかの興味とともに流されていけばいい作品である。なにより題名になっている黒猫がいい感じ。天才的な生物学者リッジリー博士が自らの理論に基づいて、死後自分の脳を移植させた黒猫なのだ。謹厳で朴念仁だったはずの老教授が、まだ残っている猫の本能に動かされてしまう様子がやけに可笑しい。若い女性に抱き上げられて撫でられ、気持ちよさそうに喉を鳴らしたり。コメディの一要素かと思っていた、(伏字)が実は大きな伏線で、後々活きてくるのが素晴らしい。

『新青年傑作選 第三巻 恐怖・ユーモア小説編』 中島河太郎編 立風書房

●『新青年傑作選 第三巻 恐怖・ユーモア小説編』 中島河太郎編 立風書房 読了。

 暗く、ねちこく、湿っぽい作品はどうも好みではない。コメントを付けたい作品は多くはない。江戸川乱歩「陰獣」はもう何度も読んでいるが、やはりつくづく感心する。昭和三年に、こんなきっちりした構成に猟奇趣味も併せ持った作品がよくも書かれたものだ。横溝正史「孔雀屏風」は、多少はひいき目もあるけれどもやはり面白い。百数十年の時を越える情念と、次々と畳みかける謎の数々、ってなもんで。

 生々しい迫力の犯罪小説、大下宇陀児「義眼」も気に入った。しっとりとした幽霊譚の名作、橘外男「逗子物語」も再読に耐える。甲賀三郎「焦げた聖書」は、気に入った作品とはちとニュアンスが違うが、終盤の歪とも思えるやけくそな疾走感が異様な迫力である。ページ数に対して作者が盛り込みたい情報量が多すぎるようだ。

●九月九日に開催された横溝正史読書会の模様を、同日の日付で公開した。

『殺す者と殺される者』 H・マクロイ 創元推理文庫

●『殺す者と殺される者』 H・マクロイ 創元推理文庫 読了。

 中盤過ぎまでは、言っちゃあ悪いがありきたりのサスペンスである。急な予定変更で早く帰宅した夫を、不審者と間違えて射殺した妻。だが、彼女は本当に屋敷に侵入してきた人物を夫だと気付かなかったのだろうか。隠された殺意がありはしないか。

 ところがここで、物語は急展開を見せる。車のアクセルをベタ踏みするように、奇天烈な方向にフルスピードでカッ飛んで行くのである。先の読めない急流に翻弄されているうちに、最終的に立ち上がってくるのは(伏字)テーマであり、(伏字)ネタである。長らく稀覯本であったこの作品が、改訳新刊になって手軽に読めるようになってよかったと思う。

『善意の殺人』 R・ハル 原書房

●『善意の殺人』 R・ハル 原書房 読了。

 犯人は誰か、という興味にあまり重点を置かず、(伏字)という点が意外性のキモである特異なミステリ。この特異さは、なるほど面白いことを考えたものですねえとは思う。思うが、結局は読み終えても平熱であった。なぜならこの趣向は事実の問題ではなく、事実をどう処理するかの問題だからである。

 今の私は、とんがったミステリを愛でる感受性を持っていない。精神が老化しているのかもしれんがそれはどうでもいい。私が読みたいのは、王道、ありがち、型通りのミステリなのだ。というわけで、申し訳ないが読了しての満足感は大きくない。もしも三十年前に読んだら、もう少し感動したかもしれない。

●書店に寄って本を買う。
『ねじれた蝋燭の手がかり』 E・ウォーレス 仙仁堂
横溝正史の日本語』 今野真二 春陽堂書店

●注文していた本が届いた。
『二重の影』 森下雨村 ヒラヤマ探偵文庫
『ある刑事の冒険談』 ウォーターズ ヒラヤマ探偵文庫