累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ロードシップ・レーンの館』 A・E・W・メースン 論創社

●『ロードシップ・レーンの館』 A・E・W・メースン 論創社 読了。

 国会議員の自殺事件が発生する。調べてみると殺人の疑いが浮上した。ところが事件は深く追及されることなく、別の話になってしまう。そしてまた別の話に移り……

 殺人の謎が興味の中心ではない。目先の主題はちょいちょい変わる。冒険小説やスリラーの味わいでもって、ゆったりと展開される古風な物語である。しかも終盤は(伏字)する構成になっている。どうやらメイスン、資質としてはミステリ黄金時代前夜の人のようだ。原書刊行は第二次大戦後なのだが。

 原文がそうなのか訳のせいなのか知らんが、地の文も会話も、どうにもこうにもぎこちない。意味を理解できない箇所も少なからずある。例えば、「実験のようにぼんやりと」だとか「運命へと行進していく」だとか。文章に引っかかって気持ちが醒め、ストーリーのブツ切りで気持ちが醒める。四百ページを三日かけたが、ただ読んだだけに近い。残念なことである。

 と、ここまでが読了直後の感想である。ところが巻末解説では、古風さどころか、メイスンの先見性が指摘されているではないか。なるほどなるほど。また、「いわゆる本格ものしてのみ捉えることは、メイスン作品の読みの可能性を狭めてしまうことになるだろう」だそうで。より楽しめる読み方を提示してくれる解説は、すなわちいい解説である。感心した。