●『ワトスン夫人とホームズの華麗な冒険』 J・デュトゥール 講談社 読了。
「四つの署名」事件を題材にして、メアリー・モースタンの視点で綴ったパスティシュである。だが実際のところ事件そのものは脇に押しやられ、作中で主に語られるのは彼女の半生記と、ワトスンを相手にしたメロドラマ。冗長な会話と冗長な描写とが大量に盛り込まれ、そのうえ途中で頻繁に、話の流れが冗長な余談に逸れていってしまう。
題名から想像した内容は、ホームズとメアリーとが協力して事件に取り組むミステリだったのだが、全然違っていた。巻末の訳者あとがきによれば、原題をそのまま訳すと「メアリー・ワトスンの回想」だそうな。内容は確かに原題の通りである。
ビクトリア朝ロンドンの社交界を中心とした当時の社会風俗を描くことも、作者の狙いだったそうで。なるほどやりたいことは分かったけれども、もう少し簡潔にならなかったものか。それに、私がこの本に期待していたのは雑学ノンフィクションの興味ではないのだ。ともかく、ページをめくるにつれてメアリーの語り口に対してまどろっこしさが募ってしょうがない。要点を書け要点を、と言いたくなる。いやはや。