●『九時から五時までの男』 S・エリン ハヤカワ文庫 読了。
ご機嫌な短編集。じわじわと不穏な空気を高めていったあげく、安全で明瞭な着地点を描かないまま、読者に想像を委ねて終わる。最後にぱっとひっくり返してアッと驚きスカッと爽快、ってな作風ではないので、読んでいてどうも疲れる。
個人的ベストは「不当な疑惑」であった。扱われているアイデアに感心するし、幕切れも上出来。次点は結末が光る「七つの大徳」。他に気に入ったのは、(伏字)が物語の後に続く「ブレッシントン計画」、不穏な空気の醸成ぶりが突出している「ロバート」、題名から連想するサラリーマン像が大きく逸脱してゆく表題作「九時から五時までの男」といったところ。
篤い信仰心だとか、なくてはならない大事な仕事だとかの隙間から、生々しい人間味がふと漏れ出てしまう「神様の思し召し」と「伜の質問」も秀逸。