●『すべては死にゆく』 L・ブロック 二見書房 読了。
序盤は、ふたつの物語がほぼ並行して語られる。ひとつは、スカダーの一人称による人探しの物語。私立探偵小説の定番である。もうひとつは、三人称で語られるある心理学者の物語。彼は、刑執行直前の死刑囚のもとへ何度も通って会話を積み重ねる。だがこの人物、どことなく胡散臭い。
中盤になって主たる題材が見えてくると、私立探偵小説というより犯罪小説の色が濃くなってゆく。扱われている犯罪がなかなかにエグく、ハードな物語である。全般的に会話が面白く展開が速く、いつくか仕掛けられている捻りのおかげもあってぐいぐい読めた。特に、(伏字)だったという意外さは気に入った。
マット・スカダーシリーズで唯一、文庫になっていない作品である。新刊の時は、文庫になるまで待つつもりだった。ところがいつまで経っても文庫化されず。このままでは作品自体読めなくなると思って、古本で買った。それももう五年も前の話である。ところでこの作品、巻末の訳者あとがきでも記されているように、前作「死への祈り」と併せて前後編となっている。こちらだけ文庫になっていないのはどうもバランスが欠ける気がするのだが、惜しいことである。