累風庵閑日録

本と日常の徒然

『黒岩涙香探偵小説選I』 論創社

●『黒岩涙香探偵小説選I』 論創社 読了。

「無残」を読むのはたぶん三回目。過去の感想はちっとも覚えていないけれど、読んでみると意外なほど面白い。まず、髪の毛にまつわるロジックの面白さがある。「勘と経験」対「論理と推理」という構図も面白い。さらに、キャラクターが面白い。ベテランの探偵谷間田は経験を鼻にかけ、若い大鞆探偵を侮っているが、その実捜査の理論を学んだ大鞆からは内心で馬鹿にされている。そして、馴染みの薄い明治時代の文章をゆっくり読んでいくと、案外会話が面白い。フ失敬な、フ小癪な、フ生意気な。

 その他の作品では、「恐ろしき五分間」のサスペンスがちょいと読ませる。「紳士三人」や「広告」のようなユーモア篇も捨て難い。「生命保険」はミステリ味が濃厚で、再読だけれども安定の面白さである。