累風庵閑日録

本と日常の徒然

『別冊・幻影城 NO.16 小酒井不木』 幻影城

●『別冊・幻影城 NO.16 小酒井不木』 幻影城 読了。

 去年河出文庫で『疑問の黒枠』が出た。いいきっかけなので読もうと思っていたのだが、実際に手に取るのが延び延びになってしまった。本書には長編「疑問の黒枠」と、他に十二編の短編が収録されている。

◆「疑問の黒枠」

 ミステリならではの、様々な種類の面白さが味わえる。事件について関係者がぐるぐると考えを巡らし、あるいは互いにディスカッションする面白さ。捜査すべきポイントをひとつひとつ地道に押さえてゆく、いわゆる「足の探偵」の面白さ。物語は意外なほど起伏が激しく、派手な殺人場面、関係者の失踪、死体紛失、といった展開にはスリラーの面白さがある。

 では肝心の、真相の面白さは如何に。そして真相解明に至る流れの面白さは。 ……ううむ、全てを満たす作品なんて、そうそうありはしないのだ。

 結末部分を読むと、作者が意図的にこのような解決にしたとも読み取れる。その試みは、かなり先進的なものかもしれない。感想を書きながらぼやぼやと考えていると、もしかして面白いかも、とだんだん思えるようになってきた。

◆短編
本書収録の短編は、精選されている故か秀作が多い。何度か読んだ作品も含まれているが、再読は再読でまた楽しい。

「呪われの家」は堅実な犯罪捜査の模様を描くのかと思っていたら、ふいに土俗的な闇が現れる。扱われているネタもちょっと面白い。「直接証拠」も、扱われているネタが興味深い作品。

 他に面白かったのは、落語とブラックジョークとの融合のような「稀有の犯罪」、マッド・サイエンティストものの秀作「人工心臓」と「恋愛曲線」、どんなテーマかをここに書いちゃいけない(伏字)テーマの「闘争」、理詰めに真相に迫ってゆく好みのタイプの「愚人の毒」といった辺り。

 収録の短編で一番気に入ったのは「新案探偵法」で、不木がこんなとぼけた味わいの作品を書いているとは知らなかった。