累風庵閑日録

本と日常の徒然

『アリントン邸の怪事件』 M・イネス 論創社

●『アリントン邸の怪事件』 M・イネス 論創社 読了。

 なんともはや、悠々とした物語である。情景も人物の外見も作中で行われる催しの様子も、丁寧に描写が積み重ねられる。登場人物同士が会話を交わす場面も、実にゆったりとしたもので。ある発言があれば、聞いた者がその言葉で何を思ったか、はたまた発言者の内面や人間性をどのように推し量ったかが、その都度書き込まれる。

 早い段階で事件が起きるが、それが事故なのか犯罪なのか、どうにも掴み所の無いまま、物語はゆったりと進む。生来せっかちな私としては、ちとまどろっこしい。時間にも気持ちにもたっぷりとゆとりのある人が手に取れば、味読できるだろうよ。かすかな皮肉とどことなしに漂っているユーモアの味が、いかにもイギリスミステリらしい。

 解決部分は(伏字)たのだろう。キモとなるネタは、うん、これにはちょっと感心した。

 ところでこの本、長崎出版の海外ミステリGemコレクションの再刊だそうな。Gemコレクションはまだ一冊も手を付けていない。いつかそっちを読むときには、たぶん「アリントン~」は読まずにパスするだろう。