累風庵閑日録

本と日常の徒然

『叫びの穴』 A・J・リース 論創社

●『叫びの穴』 A・J・リース 論創社 読了。

 なんとも地味で重厚な描写が続き、読み進めるのにちょいと覚悟が要る作品である。その読み味はクロフツの地味さではなく、P・D・ジェイムズの重厚さである。ノーフォークの北海沿岸に位置して、強風が吹き荒れ周囲の湿地に浸食されつつある僻村の描写は、寒々として湿気が迫ってくるようだ。

 真相に至る筋道が、多く(伏字)に依存しているのがちょっと好みから外れるけれども、書かれた時代を考えればどうということはない。ちゃんと書こうとしてもどうせ伏字ばかりになってしまうからキーワードだけ書くけれども、とある伏線に関心した。意外性の演出にも感心した。陰鬱な描写は上にも書いたように読むのにちょいと覚悟が要るけれども、それはまた魅力にもなっている。ミステリを読んだ満足感をちゃんと得られる良作であった。