情に訴えるよりも知に訴える作風である。人間関係の様々なパターンを想定した思考実験を行い、結果をそのまま小説に仕立てたような。それぞれの作品のテーマがそれぞれに興味深い。
面白かった作品は、「正義」、「虚実」、「不幸な人達」といったところ。個人的ベストは「富士妙子の死」である。手掛かりに基づくロジックを仕込んであるこのような作品が、やはり好みに合っている。
「探偵小説家の死」で、ある一行が大きな伏線だったことには感心した。「彼が殺したか」は、前半私の苦手な犯罪実話の色が濃く、正直言って退屈したが、最後まで読むと面白い題材であった。
●お願いしていた冊子が届いた。
『戦後 春陽文庫 資料集成 β版』 書肆盛林堂
