熱意先行型のマニアさんが書いた作品には、題材を詰め込み過ぎてページ数とのバランスが取れなくなっている例がちょいちょい見受けられる。ところがこの作者はそうではない。ページ数に応じた過不足のない題材でもって、そつなく分かりやすい作品をものしてみせる。名作や傑作というのではないが、水準を保ちつつ娯楽作品を供給するプロフェッショナルの技量である。なんと上手いことかと感心する。
収録作はどれも、特に欠点を感じずいい意味で普通の作品であった。以下、いくつか気に入った作品にコメントを付けておく。「日光浴の殺人」はシンプルな内容と探偵役の造形とが読みどころ。デブでオールドミスでベテラン記者の花子が活き活きと描かれている。
「ミニ・ドレスの女」は、これも登場人物がいい感じ。キーパーソンのひとりであるチンピラの赤尾竜二は、そのあまりに自由な生き方に事件を捜査する刑事が思わず羨んでしまう。「血塗られた”112”」は、適度に錯綜した謎がよく整理された解決に落ち着く。手際の良さがうかがえる佳品である。