●『十人の小さなインディアン』 A・クリスティー 論創社 読了。
表題作の原作小説を読んだのは三十年以上昔のことになるが、さすがの歴史的名作で印象が強く、今でも内容をぼんやり覚えている。結末のバリエーションも知っている。つまり、意外性もこの先どうなるのかという興味も、さほど強いものではない。となると、何を楽しめばいいのか。次から次へと人が殺されてゆくテンポの速さに、あっけにとられているうちに結末まで到達してしまった感がある。
「死との約束」
ミステリ的な趣向は断然原作小説の方が好みだが、ボイントン夫人の造形は戯曲版の方が不気味でおぞましく、際立っている。
「ゼロ時間へ」
ううむ……これは……
真相判明の決め手が、(伏字)というのは、厳しい…… 以前原作小説は読んだのだが、内容はまるで覚えていない。巻末の訳者あとがきによると、様々な要素が省略されているそうで。原作はどのような段取りで解決に至っているのか。この違和感は小説と舞台との作劇法の違いなのか。再読したくなってきた。
それにしても、三作ともに感じたことだが、原作はしっかりした長編なのに脚本になるとちょっとした小品に見えてしまう。脚本ならではの省略とテンポの速さ故だろうか。
「ポワロとレガッタの謎」
パーカー・パインものの原型だそうで。こういうレア作品をさらっとぶっ込んでくれるので、論創社は好きだ。ポワロが犯人を疑うきっかけとなった手掛かりが気に入った。
以上、全体として存分に楽しんだとは言えないのだが、大事なのは「読める」ということだ。満足するもしないも、読めてこそ、である。今回の刊行は、大いに寿ぎたい。
●クリスティーを午前中に読み終えたので、午後からは論創社の久山秀子を読み始める。こうやって、他の何をするでもなくぐいぐい本を読める幸せよ。