累風庵閑日録

本と日常の徒然

「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」第十二回

●昨日は、今日から新たな本を読み始めるつもりであったが、今朝になって気が変わった。横溝プロジェクト「横溝正史が手掛けた翻訳を読む」の第十二回をやることにする。

◆「乗合馬車」 ジョセフ・ハーゲシャイマア (昭和八年『新青年増刊』)
 嫌な話。近所に引っ越してきた無法者達のせいで、善良な一家が滅茶苦茶になる。

 以下の二編は、論創社から『レディ・モリーの事件簿』として訳されたシリーズの一部である。ということを、読み終えてから気付いた。

◆「ブリタニイの古城」 バロネス・オルチ― (昭和九年『新青年』)
 富豪の老婦人と、その妹、そして妹の息子の物語。息子がろくでなしってのはお決まりのパターンで。妹一家が、自分達に不利な老婦人の遺言状を奪って廃棄してしまおうと画策する。

 論創社版「ブルターニュの城」と簡単に比較すると、描写や展開が大幅に省略されている。あまりの簡略化で、まるで骨格だけのようだ。そればかりか、結末の展開もちょいと変更されている。その方が劇的効果が高まると、正史が判断したのかもしれない。

◆「ひと夜の戯れ」 バロネス・オルチー (昭和九年『新青年』)
 帽子売子の襲撃事件が、貴族婦人の恐喝へと発展する。台詞が軽快である。「訴へて出ようか、寫眞を出すか。二萬磅か五年の懲役。」

 論創社版「とある日の過ち」と簡単に比較。登場人物が減っているし、描写も展開も大幅に省略されているのは「~古城」と同様。ディテイルがしっかりしている分、論創社版の方が面白い。不思議なのは、数値がいくつか食い違っていること。上記の台詞に相当する部分では、論創社版は二千ポンドと二年間の懲役になっている。理由も意図もよく分からない。

●お願いしていた本が届いた。
『万象綺譚集』 A・ブラックウッド