累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ウォンドルズ・パーヴァの謎』 G・ミッチェル 河出書房新社

●朝から病院。三ヶ月に一度の定期通院である。といっても、薬の処方を出してもらって次回の日取りを決めるだけなので、お医者殿との会話は一分ほどで終わる。

●『ウォンドルズ・パーヴァの謎』 G・ミッチェル 河出書房新社 読了。

 その物語は、緩急自在。肉屋のフックに吊り下げられた首なし死体という猟奇的な事件なのに、やけに扱いが軽い。最初に記述されるときには、会話の中で街の噂話としてさらりと触れられるだけ。大きな進展も、重要な証拠の発見も、同様に軽く流されてしまう。前日の出来事としてあっさり語られたり、曖昧な仄めかしの後いつの間にか既成事実として扱われたり、という有様である。

 探偵役ミセス・ブラッドリーの推理もまた緩急自在。けっして少なくはない曖昧な手がかりを直感で解釈する手法は、材料から真相を導くというより、材料から一編の物語を創造するようなもので。どうしてそんな結論が? という飛躍も見せるし、時にはあえて嘘の解釈を披露して読者と警察とを煙に巻いたりするから始末が悪い。読者が推理で先んじることはたぶん無理で、結末に至って提示された最終的な解釈を、ただ拝受するしかない。

 かといってつまらないわけではない。不思議な展開を作者の持ち味として受け入れてしまえば、その奇妙さはなかなかの珍味である。ここでこうずらすか、という驚きがある。そしてもうひとつページをめくらせる原動力として、ミセス・ブラッドリーの奇矯さや、オーブリーやフェリシティといった若者の活き活きとした描写も魅力的である。

 グラディス・ミッチェルはもっと訳して欲しい。訳者あとがきには、面白そうな未訳作品がいくつか紹介されている。手元には三冊の既訳本が積ん読になっているから、先々楽しみである。