累風庵閑日録

本と日常の徒然

『わが子は殺人者』 P・クェンティン 創元推理文庫

●『わが子は殺人者』 P・クェンティン 創元推理文庫 読了。

 これは傑作。状況から判断すると殺人事件の犯人としか思えない息子。そんな彼の無実を信じ、懸命に真犯人を探究する父親の物語である。主人公ジェークに襲い掛かる苦難と衝撃の数々が、尋常ではない。畳み掛ける勢いが只事ではない。そしさらに凄まじいのが、この作品がなかなか強烈な(伏字)小説になっていることで。展開が進むにしたがって見えてくる意外さが眼目なので、方向性を示唆することも書かない。

 読者の感情を揺さぶる力を持っているという意味で、激しく、力強い作品である。読みながらぐったりしてしまった。サスペンスとしては上々だが、ミステリのネタとしてはちと大人しめ。実際の真相よりも、事件が起きた場面を読んでぱっと頭に浮かんだ仮説の方が邪悪であった。