累風庵閑日録

本と日常の徒然

『金庫と老婆』 P・クェンティン ポケミス

●『金庫と老婆』 P・クェンティン ポケミス 読了。

 表題作は傑作と言っていい。文字通り金庫と老婆とを題材にして、特上のサスペンスを紡いでみせる。内容について詳しいことは書かない。他に気に入った作品は、このネタこの内容なら十分長編にもなり得る「不運な男」、少年のプライドが痛々しい「親殺しの肖像」、(伏字)ネタの秀作「少年の意思」といったところ。題名だけ挙げておく「母親っ子」も悪くない。

 ところで本書は間違いなく面白いのだが、その面白さの質がちとしんどい。ストーリーの捻りや切れ味による面白さではないのだ。人間の心の闇や性格のゆがみ、こじらせた執着といったものが主題になっており、しかもそれらが胸に迫るような上手さで書かれてあるので、読んでいて疲れる。