累風庵閑日録

本と日常の徒然

『濃霧は危険』 C・ブランド 国書刊行会

●『濃霧は危険』 C・ブランド 国書刊行会 読了。

「奇想天外の本棚」叢書の一冊で、ジュブナイルである。悪漢達に盗まれた家伝の宝物を、ひょんなことからその家の少年が追うことになる冒険譚。ふとした行き違いで悪漢グループから手に入れた暗号メモが、主要な謎として扱われる。よくある暗号解法は、法則に従って文字を置き換えたり各行の最後の文字を拾っていったりといったもの。個人的にはそういった機械的なアプローチにはあまり面白さを感じない。ところがこの作品では、言葉の連想でもってだんだんに読み解いてゆく展開が興味深い。「解く」のではなく「読む」のである。

 悪漢グループの中で、通称ヴァイオリンの造形が秀逸。巨大な体にさらに大きなぶかぶかのスーツを着て、ヴァイオリンのケースを持ち歩いている。片足は杖のような木の義足。ヴァイオリンのような甲高い声。力業で主人公を殺そうする一方で、弁が立って計略で殺害を企む狡猾さも持ち合わせている。なにより、姿が見える前に義足の足音がガツンコトンと聞こえてくるのが、迫りくる危険を予感させて不気味さが際立っている。

 一番感心したのが物語の着地点で。しかも早い段階に(伏字)のである。終盤までは、読めることに意義がある作品と思っていたけれども、この結末があることで読後感が大変によろしい。