累風庵閑日録

本と日常の徒然

『死との約束』 A・クリスティー クリスティー文庫

●『死との約束』 A・クリスティー クリスティー文庫 読了。

 記憶も定かでない三十年以上昔、この作品をハヤカワ文庫で読んだ。その後、戯曲版を論創海外ミステリで読んだ。引っ越しの際に文庫が見当たらなくてやむを得ずクリスティー文庫版を買い直しておいたのを、積ん読十九年の果てにようやく読んだ。つまり三回目である。真相をぼんやり覚えていて俯瞰で読めた今回は、とにかくもう、やたらに面白かった。犯人が殺意を抱くきっかけとなった、割と早い段階で描かれる伏線の意味が分かる。なるほど、ここでこうやって書いているのか、と思う。

 クリスティーが読者に提示した物語の枠組みを、最終的にどうやって意外性の演出にもっていくか。その点がすでに分かっているので、意外性に惑わされずにクリスティーが本当にやりたかったであろうネタが見えたような気がする。というのはこちらの勝手な想像だけれども。やりたかったであろうネタとは、(伏せ字)という、力ずくな仕掛けである。しかも、そんな状況に至った理由がきちんと用意されている。まったく上手い。そして、解決部分でポアロがその辺を解き明かしてゆく様がなんとスリリングなことか。クリスティーには感心する。