累風庵閑日録

本と日常の徒然

『歴史を考えるヒント』 網野義彦 新潮文庫

●『歴史を考えるヒント』 網野義彦 新潮文庫 読了。

 フィクションを読むのが少々疲れてきたので、気分転換にノンフィクションを読む。歴史を研究するとき、古文献に書かれた言葉が当時どのような意味を持っていたのかに意識を向けることが重要であると説く。たとえば中世における「自由」という言葉には、規範を無視してわがまま勝手に振る舞うという、今では失われたマイナスの意味があった。明治時代に西欧の思想を導入する際、日本にはなかった概念に対して既存の日本語を当てはめた結果、語の本来の意味が失われてしまった。

 たとえば「落とす」という言葉は、物が持ち主の手から離れると同時に所有の束縛からも離れて無主物となり、いわば神や仏の所有物になることを意味していた。それを拡大解釈して、力づくで相手の所有権を奪う行為にも「落とす」が用いられた。船を襲って船荷を奪う海賊の行為を「落とし取る」と表現した文献が残っているという。たとえば「市場」という言葉は本来「市庭」であり、「庭」という言葉は人々が共同で作業、生産、あるいは芸能を行う場所を意味していた。狩猟を行う「狩庭」、網を引く「網庭」、塩を焼く浜「塩庭」といった様々な庭があった。

 到底要約できない濃密な内容は、実に興味深くスリリングであった。

●書店に寄って本を買う。
『幽霊屋敷』 J・D・カー 創元推理文庫

●定期でお願いしている本が届いた。
オパールの囚人』 A・E・W・メイスン 論創社
『闇が迫る マクベス殺人事件』 N・マーシュ 論創社