累風庵閑日録

本と日常の徒然

『列車に御用心』 E・クリスピン 論創社

●『列車に御用心』 E・クリスピン 論創社 読了。

 二十ページもないような短い作品が多い。捻りと切れ味で勝負するタイプの作品ならいいが、本書のように手掛かりに基づいて謎を解明するタイプの作品だと、この短さは少々あっけない。だがそれは些細な不満点であり、全体としてはとても面白かった。短すぎる作品は、一歩間違えれば単なるミステリクイズになってしまうところだが、本書はそうではない。多くの伏線、きちんとしたロジック、意外性のある真相などが高い密度で書き込まれ、おまけにキャラクターの造形もちゃんとして、短編ミステリ小説として楽しめる。

 お気に入りは、「人生に涙あり」、「高速発射」、「窓の名前」、「ここではないどこかで」、「決め手」あたり。一番の秀逸作は、巻末の「デッドロック」である。やはり、ある程度ページ数があった方が面白い。関係者の行動が時刻毎に細かく描かれていて読み応えがある。現場の地図が挿入されているばかりか、それがきちんと意味があるのも嬉しい。結末の余韻もなかなかのもの。

●クリスピンを朝の内に読了できたので、すぐさま次の本に取り掛かる。読書が順調でありがたいことである。