累風庵閑日録

本と日常の徒然

『刺青殺人事件』 高木彬光 光文社文庫

●『刺青殺人事件』 高木彬光 光文社文庫 読了。

 この本を買った目的は、収録されている未発表作品「闇に開く窓」にある。いかにも探偵小説らしい趣向が微笑ましく楽しいし、そもそも読めるということ自体がありがたい。皮肉の利いた結末も悪くない。

 表題作の方は、以前扶桑社文庫で出た初稿版を含めると、読むのは三度目である。過去に二度読んだというのに、内容をほとんど忘れ、犯人すら憶えていないのには自分で呆れる。たっぷりとページを割いて滔々と語られる解決部分がなかなかの読み応え。特に、密室を構成した理由には感心した。様々なネタ、趣向、しかけを贅沢に盛り込んだ真相は、大仰で熱っぽい文章と相まって、執筆当時の著者の熱意のようなものを感じさせてくれる。ただ一点だけ、犯人が(伏字)を使うってのは、好みから外れていてちと残念。

 ところで、手元にある三十年ほど前に買った角川文庫版と比べると、ある語句をいじっていることが分かった。これが現代の出版の限界か。

●書店に寄って、『シナリオ 6月号』を買う。収録されている「シナリオ 刺青殺人事件」が目的である。今日原作を読んだのは全く意図しない偶然のタイミングだが、せっかくの偶然だから、明日にでもシナリオを読んでみようと思う。