累風庵閑日録

本と日常の徒然

シナリオ「刺青殺人事件」

出光美術館に「水墨の壮美」と題する展示を観に行ってきた。目玉は国宝伴大納言絵巻の中巻で、子供の喧嘩に親が出て、それをきっかけに放火の真相が暴露される部分である。前回観た上巻と同様ひび割れが目立つが、それでも描かれている人々の仕種や表情が活き活きとして面白い。喧嘩相手の子供の親に足蹴にされ、吹っ飛んでいく瞬間の子供の姿に躍動感があって、可哀そうでもあり可笑しくもある。

 主な展示物は出光美術館が所蔵している水墨画の数々。一番気に入ったのは、中国の名勝を描いた狩野元信の『西湖図屏風』である。広々とした湖水と峻険な山、そこに堤や島が点在し、舟や人々が配置される。六曲一双の大面積に伸び伸びと描かれており、空の広さも気持ちいい。

伊藤大輔のシナリオ「刺青殺人事件」を読んだ。原作の内容をはっきり憶えている今のタイミングで読んだのは正解だった。安直な活劇スリラーにせず、割と細かな部分まで原作に寄り添って、きちんと犯人探しミステリとして書いてあるのに感心する。ただ、真相はかなり端折ってあるけれど。ミステリならではの情報の与え方、あるいは隠し方を映像に落とし込む工夫が分かって興味深い。これはフィルムが発見されて欲しい。