累風庵閑日録

本と日常の徒然

『江戸川乱歩の推理教室』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫

●『江戸川乱歩の推理教室』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫 読了。

 江戸川乱歩が何らかの形で関わった犯人当てミステリを集めたアンソロジーだそうで。収録作の大半は、河出書房刊の江戸川乱歩編『推理教室』から採っている。以前、数作が割愛された河出文庫版の『推理教室』を読んだことがあるが、もちろん内容は全く覚えていない。

 長くても二十ページほどの小品ばかりだから、細かなところまで描写が行き渡らないのはやむを得ない。そんな段取りで犯行が上手くいくのか? だの、あの記述はちょっとおかしいだろう、だのとちょいちょい引っかかる。だが、それをいちいちツッコムのは野暮ってえもんだろう。細かいことは気にしない、という姿勢で読み進める。

 収録作中のベストは、あまりにもベタな(伏字)のネタを意外な方向性で活用した、仁木悦子「月夜の時計」である。他に気に入った作品は、パズル要素が強くて考えるのが楽しい佐野洋「土曜日に死んだ女」、ページ数のわりに解決に至る筋道がしっかり書かれている大河内常平「サーカス殺人事件」、といったところ。

 特に作者名を意識していなかったが、飛鳥高は収録の三編全て気に入った。ネタがシンプルな「飯場の殺人」、謎の設定と真相との関係が秀逸な「にわか雨」、展開がそもそも読んで面白い「無口な車掌」である。