累風庵閑日録

本と日常の徒然

「くらやみ坂の死美人」と「蝙蝠屋敷」

●先日観た「人形佐七捕物帖 くらやみ坂の死美人」は、「蝙蝠屋敷」が原作だそうで。過去の自分の日記を眺めていて、そんな記述にでくわした。すっかり忘れていた。映画の記憶が新しいうちに、原作と照らし合わせてみることにする。春陽文庫では第九巻『女刺青師』に収録されている。原作に蝙蝠組との立ち回りなんてあるとは思えないから、大幅にアレンジしているのだろう。

 で、実際に読んでみると案の定、蝙蝠組そのものが原作には登場しない。蝙蝠組は映画で立ち回りシーンを成立させるために追加された要素だったのだ。だがそれ以外の点では、かなり忠実に原作をなぞっているのが予想外であった。事件の基本骨格やメイントリックは改変されていない。異なる要素としては、蝙蝠屋敷の設定、共犯者の位置付け、序盤と終盤の展開、といったところ。その他細かな相違点が多々ある。

 原作では最初の殺人の理由が終盤まで伏せられているのを、映画では早々に佐七が口に出しているのは、分かりやすさを重視したためか。原作では、映画でも採用された犯人のトリック以外にもうひとつ犯人が目論んだトリックがある。真相に触れるので詳しくは書けないが、こっちのネタが映画で省略された理由はなんとなく想像がつく。

 今回の比較は、原作のミステリ色の濃さを再確認できたことが収穫であった。勢いあまって豆六が「アリバイ」なんて言葉を口走るのはご愛敬。思ったより原作に忠実だった映画への好感度も高まった。