累風庵閑日録

本と日常の徒然

『八点鐘』 M・ルブラン 新潮文庫

●『八点鐘』 M・ルブラン 新潮文庫 読了。

 ルパンシリーズにはあまり馴染みがなく、この連作短編も初読である。使われているネタがどれもこれも、当然ながら実にクラシカルで、味わいは長閑で、なかなか楽しい。主人公レニーヌ公爵は、直感とハッタリとで事件を解決する。作品によっては、事件を解決するというより、事態を収束させると表現した方が相応しい結末もある。ある作品では、なんとまあ相手の首を絞めて情報を喋らせる。レニーヌはあくまでも冒険者であって、決して英米本格ミステリの名探偵ではないというのがはっきり分かる。

 「テレーズとジェルメーヌ」と「雪の上の足跡」は、おおっ、これがあのネタが使われている作品か、と嬉しい。「ジャン=ルイの場合」が秀逸。この結末は心理的解決と言っていい。そして決め台詞がニクイ。「斧を持つ貴婦人」は、シリアル・キラーの物語かつタイムリミット・サスペンス、というエキサイティングな作品。その上、(伏字)の殺人なんてネタはクイーンを思わせる。

 ところで、「ジャン=ルイの場合」にはひとつ、興味深い点がある。この物語の骨格が、横溝正史が書いた人形佐七シリーズの「半分鶴之助」に流用されているのである。知らなかったよ。