累風庵閑日録

本と日常の徒然

『裸で転がる』 鮎川哲也 角川文庫

●『裸で転がる』 鮎川哲也 角川文庫 読了。
鮎川哲也名作選」の第七巻である。どうも今回はちと低調であった。短いページで鮎哲流の地道なミステリを書こうとすると、結末があっけなくなりがちのようだ。
 比較的面白かった作品を挙げておく。「女優の鼻」は、首を切った理由になるほどと思う。表題作「裸で転がる」は、例外的に九十ページほどの分量で地道な捜査がしっかり描かれ、その点は満足である。残念ながらこれも解決はあっけないが、犯人と被害者と、どちらも造形が記憶に残る。
「南の旅、北の旅」は、ネタが綺麗に決まっている点を楽しく読んだが、あまりに整い過ぎて、まるでミステリクイズを読んでいるようだ。その部分のせいで、収録作中のベストにはならなかった。ベストは「悪い風」で、途中の何気ない描写が最後に効いてくる切れ味が好ましい。