累風庵閑日録

本と日常の徒然

『橋本五郎探偵小説選II』 論創社

文学フリマに出かける。目当ての冊子を買い、知人のブースにご挨拶し、毎回のお楽しみになっているカレー弁当をいただくと、それでもう用事が済んだ。昼頃に会場を立ち去る。バークリーやクリスチアナ・ブランドの訳本、あるいは大阪圭吉の捕物短編なんかが嬉しい収穫である。

●『橋本五郎探偵小説選II』 論創社 読了。

 本の感想は割といい加減なもので、その時の体調や忙しさにも左右される。直前に読んだ本の傾向や、面白かったかどうかも影響する。三日前に読んだ山本禾太郎がちとつまら(伏字)ので、その対比もあってなお一層、橋本五郎が面白く感じられる。ミステリならではのネタが充実しているのが嬉しいし、作品に漂う空気感が明朗で軽快なのが、読んでいて楽しい。実際のところ、他愛ない結末もちょいちょいあるけれども。

 気に入った作品は、事件が奇妙に捻れてゆく「箪笥の中の囚人」、状況が畳みかけるように積み重なってグロテスクなサスペンスが盛り上がる「鍋」、探偵が取り組んだのはどんな謎なのかを探偵の助手が探るというひねくれた設定の「樽開かず」、といったところ。

 差出人不明の手紙一本を材料に探偵が謎に取り組む、安楽椅子探偵ものの変奏「寝顔」は、解決があまりにもあっけないけれども、冒頭の設定にはちょっとわくわくした。

 絶対に盗聴されるはずのない、湖に浮かべた船上での会話が漏洩してしまう不可能犯罪ネタ「双眼鏡で聴く」は、真相はすぐ分かるけれども、それだけではなくもうひとネタ追加されているのが記憶に残る。

 ベストは「鮫人の掟」で、短編であるが故に舌足らずなところは多分にあるけれど、伏線や解決までの筋道が一応は描かれており、最も好みに合っている。