クラシック音楽をテーマにしたミステリアンソロジーである。私はそっち方面はまるで知らんので、音楽に夢中になる登場人物達にどうも共感できない。そうなると、同じような題材で同じように叙情味が勝った作風が続いて、ちと食傷する。
同じ題材が続くことこそテーマアンソロジーの持ち味なので、そこに文句を付けても始まらないのだが。つまるところ私の好みに合っていないと言う他はない。
それでも面白く読めた作品はいくつかある。題名を挙げると、凝った構成に感心した浜尾四郎「彼は誰を殺したか」と村上信彦「G線上のアリア」。このアイデアに気付いた時の作者のしめた!という顔が目に浮かぶような丘美丈二郎「ワルドシュタインの呪い」。読み終えてから、もう一度ページを遡って記述を確認するとじわじわと面白味が湧いてくる天城一「ニ長調のアリバイ」。といったところ。
氷川瓏「悪魔の顫音」は、ページ数の割にいろいろ盛り込んであって慌ただしいけれども、容疑者に擬せられた人物の想定動機がちょっと面白かった。
個人的ベストは笹沢左保「逝ける王女のための」。作中に仕掛けられたある捻りが効いている。