累風庵閑日録

本と日常の徒然

『犯罪都市』 川本三郎編 平凡社

●『犯罪都市』 川本三郎編 平凡社 読了。

「モダン都市文学」の第七巻である。近代になって成立した、従来の村落共同体とは異なる都市空間における犯罪をテーマにしたアンソロジーである。本書の大きな意味は、横溝正史が参加したリレー小説「諏訪未亡人」および「越中島運転手殺し」が収録されていることにある。

「諏訪未亡人」は、延原謙の手になる発端で未亡人の息子が失踪する。後に続く作家達がなんとも自由に意外な方向に広げてしまった風呂敷を、トリを務める横溝正史がどうにかたたんで見せる。事前にどのくらい内容のすり合わせをしていたのか知らないが、こういうのは緊密な構成を期待するものではないだろう。まず読めることが重要である。

越中島運転手殺し」は、正史には珍しい犯罪実話。と思っていたら、二番目の正史担当分「足の裏」は意外にも怪奇小説仕立てであった。

 これもリレー作品「六万円拐帯事件」は、冒頭に掲げられた新聞報道から受ける事件の印象と、あとに続く三人の担当者が語る事件の内実とが大きく食い違っている。その違いが読みどころ。今も昔もマスコミは……なんて思ってしまう。

 他に面白かった作品は、グロテスクな展開が血液多めのホラー映画のような小舟勝二「昇降機」、結末はやや腰砕け気味だけども途中の展開が奇怪な正木不如丘「法医学教室」といったところ。すでに何度か読んだ谷崎潤一郎「途上」や江戸川乱歩「目羅博士」は、何度読んでも面白い。

●書店に寄って本を買う。
横溝正史が選ぶ日本の名探偵 戦前ミステリー篇』 河出文庫
横溝正史が選ぶ日本の名探偵 戦後ミステリー篇』 河出文庫