累風庵閑日録

本と日常の徒然

『探偵小説の風景 トラフィック・コレクション(下)』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫

●西日本旅行に持って行ってちょっと読み残した、『探偵小説の風景 トラフィック・コレクション(下)』 ミステリー文学資料館編 光文社文庫 を読了。

夢野久作「空を飛ぶパラソル」
 時代が時代ならハードボイルドの枠に入れられそうな、事件の謎に挑む新聞記者の物語。ところがそれは前半までで、なんともどうにも、嫌な嫌な結末にたどり着く。

平塚白銀「セントルイス・ブルース」
 収録作中で一番面白かったのがこの作品であった。警察の尋問と状況説明的な記述とが続く無味乾燥な展開だが、結局こういうのが好みに合っている。時刻毎の関係者行動一覧や、ちょっとした推理クイズに出てきそうな犯罪トリックが嬉しい。探偵役の設定は外連じみているが、それはそれでいかにも戦前作品にありそうな味である。題名に絡む奇妙な理屈も記憶に残る。

大阪圭吉「白妖」
 創元推理文庫で割と最近読んで、記憶に新しい状態での再読である。したがって特段のときめきはないが、感心はする。自動車消失なんて不可能興味を、戦前に扱うその姿勢が凄い。

マコ・鬼一「若鮎丸殺人事件」
 なかなかの意欲作だが、こんな複雑な内容をわずか二十ページにも満たない量でやるのは土台無理があるようだ。もっとたっぷりページを確保して、のびのびと書かれたらどのような作品になったか、とふと想像する。