累風庵閑日録

本と日常の徒然

『新アラビア夜話』 スティーヴンスン 光文社古典新訳文庫

●『新アラビア夜話』 スティーヴンスン 光文社古典新訳文庫 読了。

 論創海外の新刊、スティーヴンソン【ママ】『眺海の館』は、「新アラビア夜話」第二巻をベースに編集されているそうな。この本は今月中に読みたいと思うが、まずは準備として、積ん読だった第一巻を先に読むことにする。

「自殺クラブ」と「ラージャのダイヤモンド」との二つの大枠の中に、相互に関連のある短編が、前者には三編、後者には四編含まれている。主人公を変えながら全体の大きな流れが語られてゆく構成はちょっと面白い。

 内容は都市綺譚、というやつである。冒険を求めて彷徨う者にきちんと題材を提供する、夢幻都市としてのロンドンが魅力的。実際のところ、今の目で見ると扱われているネタはどこかで読んだようなものが多いのだが、それは今の目で見る方が悪いのであって。虚心に読めばなかなかのものである。

「クリームタルトを持った若者の話」のカードを配る場面と、「医者とサラトガトランクの話」の死体を詰めたトランクのエピソードと、そこに漂うサスペンスは上々。「二輪馬車の冒険」の、空き家を一時的に飾り立てて開催されるパーティーの謎なんて、ちょいと魅力的ではないか。「丸箱の話」でひどい目に遭うハリー君は、哀れではあるが自業自得の面もあって、微妙に可笑しい。

●いい機会だから、TOMOコミックス名作ミステリー、劇画/石森プロの『自殺クラブ』も読んでみた。「死のトランプ」と「王のダイヤモンド」の二編が収録されている。

 原典第一話の結末を変え、その内容だけで「死のトランプ」と題している。つまり、第二話第三話はばっさり削られているわけだ。「ラージャのダイヤモンド」の四編を合成して一編に仕立てた、「王のダイヤモンド」の方も大胆なアレンジで。原典第四話第七話はわずかに痕跡を残すのみ。第五話第六話のエピソードを大幅に簡略化して改変を加え、全体を再構成している。

 味わいも変わっており、都市綺譚というよりは怪奇アクション寄りに。鎧を身にまとった怪人物の襲撃や格闘シーンが追加されている。

●だんだん調子が出てきた。

 いい機会だから、あかね書房の少年少女世界推理文学全集第十八巻『ジキル博士とハイド氏』から、同時収録の「自殺クラブ」をちらりと覗いてみた。こちらは原典の三話をそのまま採用している。省略があるのかどうかは分からないけれども。

●ついでだから書いておく。「自殺クラブ」の冒頭で青年が配っているのは、光文社版ではクリームタルト、TOMOコミックス版ではクッキー、あかね書房版ではシュークリームとなっている。手元にあるけど読まなかった福武文庫『自殺クラブ』では、クリーム・パイである。

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