巻末解説には、おだやかなスパイ冒険小説とある。全くその通りで、ずいぶんと平板なスパイスリラー。と言いたいところだが、スリラーと名乗れるようなスリルの要素はほとんどない。あまりネガティブなことを書いてもしょうがないけれども、書かないと他に書くことがない。
一応は意外さも用意されている。だがその意外さの性質は(以下、ネガティブな内容なので非公開)。
本書クリスティー文庫の刊行は十六年前。原書刊行の約五十年後である。これがもしクリスティーではなくて、誰か有名ではない作家の作品だったら、異国の地で五十年も生き残っていただろうか、と思ってしまう。
●書店に出かけて本を買う。
『血蝙蝠』 横溝正史 角川文庫
六月から、由利先生シリーズのドラマが放送されるという。それに対応して、数か月前から角川文庫の由利先生ものが復刊されている。シリーズ作品はすでに柏書房で読める態勢なので手を出すつもりはなかったが、この本は例外である。正直なところ、一連の復刊本のなかで最も売れなさそうだと予想している。こういうのは買っておかないといけない。