累風庵閑日録

本と日常の徒然

『ポアロとグリーンショアの阿房宮』 A・クリスティー クリスティー文庫

●『ポアロとグリーンショアの阿房宮』 A・クリスティー クリスティー文庫 読了。

 約百二十ページの中編。短編ではないから書きっぷりにゆとりがあるようだ。ページをしっかり確保して、登場人物の造形、行動、台詞が書き込まれている。それらいくつもの描写の断片が真相につながってゆくのだ。結末では、ポアロがたどり着いた真相がただ語られるだけではない。真相の背景には、厚みのある物語が隠されている。全体が短編ではなく長編の書き方になっていて、私好みの型通りなミステリである。それと同時に短くてさっと読めるお手軽さがある。とても面白く読んだ。

 この作品は、長編「死者のあやまち」の原型だそうで。そっちは十五年前に読んでいて、過去の日記を見直すとぼんやりとした記憶がよみがえる。終盤になって突然、(伏字)するのがどうも釈然とせず、評価は高くなかった。だが今回はそこら辺のことをあらかじめ承知しているので、唐突感はない。それどころか、要所要所の描写の裏の意味が分かっていると感興も一入である。個人的には、この二作は真相を知って読んだ方が楽しめるようだ。

●「死者のあやまち」の現物にあたろうとして本棚を確認すると、ずらりと並んだクリスティーのうちなんとこの本だけが選んだように欠けているではないか。どうしたことか。買って持っているのは確実なのだが、どこかに紛れ込んでいるとすると探し出すのは困難である。どうも気になるので、いっそもう一冊買ってやろうかとも思う。

●書店に出かけて本を買う。
『メグレと若い女の死』 G・シムノン ハヤカワ文庫
『遺体鑑定医 加賀谷千夏の解剖リスト』 小松亜由美 角川文庫