累風庵閑日録

本と日常の徒然

第一回オンライン横溝読書会

●第一回オンライン横溝読書会を開催した。課題図書は由利先生物の「白蝋変化」。昭和十一年四月に連載が始まった作品である。参加者は私を含めて四名。こぢんまりとした会になった。

●会ではネタバレ全開だったのだが、このレポートでは当然その辺りは非公開である。各項目末尾に数字が付されている場合、角川文庫『花髑髏』の旧版のページを示す。

◆いつもの通り、まずは参加者各位の感想を簡単に語っていただく。参加者は全員顔見知りなので、自己紹介は省略。お互いにどんどん口を挟み、フリートークめいた流れになってゆく。

「サスペンスであって本格じゃないけど、通俗スリラーとして楽しめた」
「再読だから覚えてるかもと思ったらすっかり忘れてた」
「内容を憶えてなくてもいい作品でしょ」

「その場の盛り上がりを最優先して、細かいことはどうでもいい」
「絵になる場面が多いけど、いろいろ分からない」
「何故檻なのか」
「美少年が折檻されるシーンを描きたかったからじゃないのか」

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◆乱歩との関係

「章題に蠢く触手とあるが、乱歩名義の長編の刊行は昭和七年」
「劇場で千夜子が脅かされる場面なんかすごく乱歩っぽい」

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◆白蝋三郎の造形について
悪人ではあるが主人公格の強烈な人物であり、評価が高い。

「色が白くて隈取があって口が赤くて、ってのはジェームズ小野田」
「歌舞伎の隈取で青は悪人を表す」
「まあ良い者ではないわな」
「眼力で女性を惑わすのは、はっきりいって妖怪」
「発想のベースはドラキュラなんじゃないか」
ベラ・ルゴシの映画「魔人ドラキュラ」は昭和六年)

「でも手を出した女性の仇はうつし、受けた恩には義理堅い」
「女性の頼みは断らない」

「最初は怪物として登場しながら、中途半端に正義の味方になっちゃう」
「だらしないところもあるよね」
「花園千夜子にはめろめろになってるし」
ルパン三世と不二子ちゃんとの関係みたい」

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◆諸井慎介の造形について
一方、悲劇の人物であるはずの慎介は評価が低い(かわいそう……)

「線が細くて、べに屋一族の人間とは思えない」
「あんだけアグレッシヴな月代とは、最初から合わなかった」
「何にもしない」

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◆由利先生と三津木俊助について
白蝋三郎の評価が高いのに対して、この二人はわりとぼろくそに言われている

「白蝋三郎が女性の扱いに長けていて、三津木も由利先生もその点では勝てねえなと思った」
「あの二人は心の機微が読めない負けキャラ」
「事件を解決に導く道具でしかない」
「初期作品だからまだキャラが固まっていないようだ」
他に非公開部分でもけなされている。
(白蝋三郎の存在があまりにも際立っているので、とんだとばっちりである)

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◆今のタイミングなので当然ドラマの話題も

「これはドラマになりそうもないね」
「アレは映像にするとすぐわかっちゃう」
「放送予定四話に短編からひとつ原作を引っ張ってきているのは、よほどドラマ化できる原作が少なかったのでは」
「『焙烙の刑』なんかでも全然活躍してないし」

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◆参加者のおひとりから、「犬神家の一族」との類似について興味深い指摘をいただいた。

白蝋変化/犬神家の一族という並びで登場人物を対比すると
ヒロイン:月代/珠世
彼女が愛した:慎介/佐清は不在
彼女をものにしようと策謀を巡らす:鴨打博士/佐智
ヒロインは彼の愛人:千夜子/小夜子から嫉妬される
その他ネタバレになる人間関係にも類似が見られる。ツキヨタマヨ、チヨコサヨコ、という音の類似も。

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◆その他小ネタいろいろ

・号外の鈴の音に人々が不安がっている(P6):連載開始の昭和十一年は二二六事件が起きた年
・こんなところにも正史の洞窟好みが(P25):正史が訳した『鍾乳洞殺人事件』の刊行は昭和十一年
・人物が顔を上げて初めて誰だか判る(P35):カメラ視点で書いている
・ある人物(ネタバレ)を描写する地の文も、神の視点ではなくカメラの視点
・視点がものすごく自由自在(P95):部屋の中⇒海底⇒舟上の視点移動を一ページくらいの分量で行っている

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◆他にネタバレ非公開の部分のキーワードだけ記すと、目的は何だったのか、最後にまさかの登場、そんな人間でも太刀打ちできる、あっちは最後にへなへなになっちゃう、生還になんの説明もない、侵入になんの説明もない、あのキャラは真珠郎、セカンドオピニオンに行けよ、正史は結婚式の場面が好き、などなど大量の話題が出た。

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◆二時間はあっという間で、すぐに終わりの時刻に。結論は、読むときは細かいこと考えちゃいけない、ということで。

●読書会後は三十分の休息と酒肴を用意する時間の後、オンライン飲み会へ。今回は少女漫画ネタでやたらに盛り上がり、私が四時間で撤退した後もさらにもう一時間ほどやっていたらしい。盛んで結構なことである。