累風庵閑日録

本と日常の徒然

『飛鳥高探偵小説選III』 論創社

●『飛鳥高探偵小説選III』 論創社 読了。

 いろいろあって読書時間が確保できず、読了まで四日もかかってしまった。だが、そうやってじっくり読んだのが返ってよかったかもしれない。メインの長編「死刑台へどうぞ」は、なかなかの秀作。なによりもまず、主人公久保久男の造形が読み所。徹底した自己中心主義で他人を信用しない。人の心も言葉も変わってゆくからと、テープレコーダーに吹き込んだ音声のみを愛玩する。そんな造形にしっかり結びついた展開もいいし、結末も決まっている。

 その他の短編も秀作が多い。丁寧な伏線が嬉しい「見たのは誰だ」や「誰が一服盛ったか」、サスペンスの盛り上がりが上々の「断崖」、展開が効いている「飯場の殺人」や「東京完全犯罪」、人の欲が悲しくもあり可笑しくもあり哀れでもある「欲望の断層」や「幻への脱走」と、まったくもって粒揃いであった。

●お願いしていた本が届いた。
『血文字の警告』 S・ロジャース 別冊Re-Clam