●『ピーター卿の遺体検分記』 D・L・セイヤーズ 論創社 読了。
真相や推理の過程に対する興味よりも、物語世界の魅力で読み進めた。ピーター卿が事件を解決することに違いはないのだが、依頼された事件を名探偵が名推理で解決、といった態の作品ではない。ピーター卿と従僕バンターの造形を愛でる作品集であった。それに、事件の種類は様々だし、事件と卿との関わり方も様々で、その点にも飽きない面白さがある。
例外的にミステリ的な味が強かったのが「逃げる足音が絡んだ恨み話」と「顔なき男をめぐる解けない謎」で、他の作品と並べると浮いて見えるほど。これはこれで嫌いではない。「不和の種をめぐる卑しき泣き笑い劇」も推理の面白さがあるし、怪談めいた味わいも好ましい。
巻末の訳者あとがきには、今後も論創海外でセイヤーズが出るとある。楽しみなことである。