●『毒の神託』 P・ディキンスン 原書房 読了。
よくもまあ、これだけ設定を作り込んだものだ。独自の言語と文化とを持つ架空の沼族、単語カードによって人間と意思疎通ができるチンパンジー、奇妙な宮殿に住む砂漠の王族。主人公のイギリス人と、これら異文化に属する人そして猿とのコミュニケーションに多くのページが割かれている。
冒頭に翻訳メモとあるのは、作者のディキンスンが沼族の言語を英語に翻訳するに際して記したという設定である。沼族の挨拶の言葉「ぬしの水牛を我が溜まりに休ませるがよい」は、たったひとつの複合語より成る、だそうで。設定マニアの嬉々とした姿が目に浮かぶようだ。
こんな突拍子もない舞台設定ではちゃめちゃな展開がつづられるのに、ミステリとしての構成がしっかりしていることに驚く。伏線が散りばめられ、最後にいかにもミステリらしい真相が明かされる。特異なチンパンジーが登場する意味も、きちんと設けられている。
癖の強い作家だから立て続けに読むことはできないけれども、いずれ手元にある何冊かを読むのが楽しみである。
●応募していた、春陽堂書店の『完本人形佐七捕物帳』全巻購入特典の冊子が届いた。「影右衛門」と「人魚の彫物」の、未発表改稿バージョンである。原稿用紙のまま残されていたのを翻刻したという。素晴らしい。
●書店に寄って本を買う。
『皮肉な結末』 R・レヴィンソン&W・リンク 扶桑社ミステリー