累風庵閑日録

本と日常の徒然

『少年探偵王』 芦辺拓編 光文社文庫

●『少年探偵王』 芦辺拓編 光文社文庫 読了。

 今となっては、乱歩の幼年向け作品は光文社文庫の全集で読める。高木彬光の「吸血魔」は、十年前に「蝙蝠館の秘宝」の題でポプラポケット文庫から刊行された。だが本書の刊行当時は、これらの小説は読むのが非常に困難だったのだ。誰でも手に取れる文庫の形態で刊行したことは、偉業と言っていい。そのことに敬意を表しつつ、淡々と読み進める。

「ふしぎな人/名たんていと二十めんそう」 江戸川乱歩
 獣の皮をかぶって変装するネタを、年度をまたいだとはいえ同一作品中で平然と使い回している辺り、乱歩だなあ、と思う。

「吸血魔」 高木彬光
 初読の時はさして面白いとも思わなかったのだが、今回は楽しめた。大勢の登場人物が秘密を奪い合って入れ代わり立ち代わり暗躍する展開は、単純な探偵対怪人の物語ではない。形式としての「意外な犯人」が、きちんと用意されているのも好ましい。

「ビリー・パック 恐怖の狼人間」 河島光広
 ううむ、これは凄い。ジュブナイル探偵活劇のエッセンスを抽出して濃縮したような展開に、すっかり満腹である。

 収録作中では、鮎川哲也の三作がトリッキーで最も好みに合っていた。これは面白い。