累風庵閑日録

本と日常の徒然

『極悪人の肖像』 E・フィルポッツ 論創社

●『極悪人の肖像』 E・フィルポッツ 論創社 読了。

 題名の通り、語り手である主人公の造形が読み所。俺様は頭がいい。俺様は意思が強い。俺様は愚かな兄貴達とは違う。といった、ぱんぱんに膨らみ切った自意識が時に痛々しいが、決して不愉快ではない。表向きはあくまでも穏健で健全な田舎紳士を演じきっており、内面と外面とには大きなギャップがある。そういう周囲を欺く様子に、犯罪計画の一部としての面白さがあるのだ。

 ちょいちょい挟まる抽象的な語りが、いちいち読むスピードにブレーキをかけるけれども、展開は概ねテンポよく進んで快調である。最終的に主人公がたどり着いた境地にもなかなか含蓄があって、全体として面白く読めた。

 巻末解説には、主人公が「信頼できない語り手」であることや、本人が決して認めない劣等感などの指摘があって興味深い。読み手の視野を広げてくれる、解説の名に相応しい文章である。