●『ソニア・ウェイワードの帰還』 M・イネス 論創社 読了。
主人公の造形が面白い。自意識でぱんぱんに膨らんで、張り裂けそうになっている。俺様は上流階級に属し、知識も教養もあって、合理的で冷静で、困難な問題にも臆せず適切に対応できるだけの、勇気も機知も持っている。そう評価しているのはおそらく本人だけである。実際の彼は次から次へと降りかかるトラブルに翻弄され、冷や汗をかき顔は青ざめ、周章狼狽あたふたおろおろ。そんな様子が可笑しくもあり哀れでもある。
よくまあこんなに、と思うほどストーリーは変化に富み、スピーディーに突っ走ってゆく。主人公はそのスピードに到底対応できず、必死に主体的な対応策を練るもことごとく裏目に出て、混乱しながら流されてゆくばかり。そして後半の展開の、なんと明るく、愉快で、そして力強いことか。なかなかの秀作であった。