累風庵閑日録

本と日常の徒然

『黒い死』 A・ギルバート ポケミス

●『黒い死』 A・ギルバート ポケミス 読了。

 恐喝者の口を封じようと決意した四人の被害者達。皆で籤を引いて、当たった者が単独で対応することに決めた。残りの三人に累が及ばないように、当たったことは黙っておく、という申し合わせもした。ところがここで、籤の提案をした者がインチキをして、なんと全員が当たりを引いてしまう。発案者は、口封じが失敗する可能性を極力減らすべく万全を期したのだった。

 恐喝の不安に慄く被害者と、暗殺の恐怖に怯える恐喝者。というサスペンスストーリーが、やがて犯人捜しミステリへと変貌してゆく。オープニングが上記のようにちょいと捻ってあるので、全体もツイストの利いた展開を期待したのだが、案外素直なものである。そして残念なのは、真犯人の設定で。これがどうも私の好みではなく、読了しても冷静なままであった。

 結末で示された、作者がやりたかった趣向にはちょいと感心したし、関連する伏線もなるほどと思う。けれど、犯人が判明した直後の評価を覆すほどのインパクトはなかった。