累風庵閑日録

本と日常の徒然

『わが職業は死』 P・D・ジェイムズ ハヤカワ文庫

●『わが職業は死』 P・D・ジェイムズ ハヤカワ文庫 読了。

 登場人物に対しても周囲の情景に対しても、執拗な描写が積み重ねられる。根気も集中力も長続きしなくなっている今、みっしりと書き込まれた五百ページは、しんどい。読了するのに四日もかかってしまった。せめてもう少し簡素であってくれたら、というのは禁句だけれども。簡素なP・D・ジェイムズなんてP・D・ジェイムズではない。

 確かにしんどいけれども、面白い。様々な人の様々な想いが胸に迫るし、最終的には全てが収まるところに収まって、ミステリの気持ちよを味わえる。意外性の演出はさほどでもないが、作者の志向がそっちに方面に無いのだろう。帯で密室殺人を強調しているのは、早川書房さん営業戦略をがんばりましたね、と思う。

(伏字)た段階で、ダルグリッシュ警視長も部下のマシンガム警部も、犯人が分かったとおっしゃる。形を変えた読者への挑戦なのだろう。私は分からなかった。そして読了しても、なぜその段階で犯人が分かったのか、分からなかった。

 それにしても、P・D・ジェイムズはしんどい。その作品には、ポケミスで訳されたきり文庫になっていないものもある。今後もしそういった作品が文庫化されても、もういい。もう手を出さない。面白いことは間違いなく面白いはずだが、しんどい。本書で手持ちの作品を全て読み終えて、これで私にとってはP・D・ジェイムズ打ち止めとする。

●午後に少し時間があったので、先頃復刊された角川文庫の横溝正史『血蝙蝠』から、今度ドラマ化されるという「銀色の舞踏靴」を読んだ。ちょっとした趣向が用意されているし、犯人の不気味さもクライマックスのサスペンスもあって、なるほどこれはドラマ化に向きそう。

 舞踏靴を釵に置き換えればほぼそのまま人形佐七ものに改変できそうな骨格をしている。と思ったら、どうやら実在する佐七作品「(伏字)」の再利用のようで。