●『坪田宏探偵小説選』 論創社 読了。
地味で堅実な作風が好ましい。時に探偵実話風の無味乾燥さが読むのにしんどい面もあるけれど。結論として、途中飽きずに面白く読めた。
「歯」は、遺留品に関するふたつの趣向と題名にある歯の扱いと、以上三点の読み所が秀逸。「勲章」は、犯人が仕掛けたネタとその破綻とがよくできているし、被害者の造形が際立っている。
他に気に入った作品は、状況の奇怪さが群を抜く「二つの遺書」。ハードボイルドめいた世界観に意外な捻りをねじ込む「非情線の女」。真相はこれしかないだろうというストーリーの流れをひっくり返す力技がお見事な「義手の指紋」。アリバイの状況設定が魅力的な「下り終電車」。ってなところ。
