累風庵閑日録

本と日常の徒然

『千葉淳平探偵小説選』 論創社

●『千葉淳平探偵小説選』 論創社 読了。

 面白い。収録作の味わいの、バラエティに富んでいること驚くばかりである。オーソドックスな本格ミステリ、艶笑譚風ミステリ、通俗ハードボイルド風、いわゆる「足の探偵」の堅実な作風、犯罪サスペンス、素朴ではあるがアリバイトリックネタ、といった作品が連なる。

 それぞれの作品にいくつものアイデアが詰め込まれているばかりか、それらのアイデアがきちんと活かされていることに感心する。マニアさんが情熱だけで書いた作品では、アイデアを盛り込み過ぎて処理能力が追い付かず、グダグダになってしまう例がちょいちょい見受けられるというのに。さらに、ちょっとした捻りまでも用意されている。

 前半の十一編は、概ね全ての作品が面白かった。個別の作品に対するコメントは省略。後半は十ページ程のシリーズもの六編と、ショートショート六編。この、シリーズものがこれまた面白い。主人公沢村友三の造形がなんとも呑気でお気楽で、若さま侍を連想する。内容は軽くてユーモラス。他愛ないものもあるがミステリネタもきちんと仕込まれている。