累風庵閑日録

本と日常の徒然

『闇の展覧会-敵』 K・マッコーリー編 ハヤカワ文庫

●『闇の展覧会-敵』 K・マッコーリー編 ハヤカワ文庫 読了。

 約四十年前に刊行された、書きおろし怪奇小説アンソロジーの再刊だそうで。本書だって十六年物の積ん読であるが。上下巻だったものが三巻本に再編されている。

 一番気に入ったのは、クリフォード・D・シマック「笛吹く古井戸」である。一族の歴史を書くために、所縁の土地を訪れた主人公。かつて入植して農場を開いていた彼の先祖は、一世紀も昔になぜか逃げ出してしまっていた。遠い昔に先祖が掘った井戸は、水を求めて途方もない深さになっている。北風が吹くとき、井戸から笛の音が聞こえるという。彼はその土地に不思議な親近感を覚える。こういう、人類の歴史よりも古いなんじゃかんじゃがアレしてこれして、というシチュエーションは好きだ。

 他に面白かったのはサイコサスペンスの佳作、ロバート・ブロック「クリスマスの前夜」、夏草の生命力が異様な不気味さのカール・エドワード・ワグナー「夏の終わるところ」、文明人が紛れ込んだアフリカの魔都が強烈なジョー・ホールドマン「リンゼイと赤い都のブルース」といったところ。